接近(6)
結局、部活では監督に筋トレすらとめられ、練習してるヤツらのサポートだけ。
以前なら、そんな面倒なことなんてしなかった。
練習中のおれは、自分の世界に浸ってたから。
けど、今はこんな雑用すらも心地いい。
みんなの役に立てるのが、こんなにもうれしいことなんて思ったこともない。
新感覚。
「樋口ィ~、ムリすンなよ~」
「先輩、そんなこと、オレらがしますから、座っててください」
先輩や後輩たちの声。
おれにとって、エネルギーになった。
「やらせとけ。こいつは奉仕するヨロコビを見ィ出したんだ」
上野はニヒルな笑みを浮かべてるけど、皮肉ってるんじゃない。
お前のその隠れた優しさにも救われた。
結局、おれは助けられてばかりだった。
気づかなかった。
もしかして、おれが一番バカだったのかも。
それでもいいや。
練習が楽しい。
みんなと一緒にいることが楽しい。
中沢が教えてくれた。
きっと、本人はそんなつもりはなかっただろうな。
おれにとって、中沢とゆー存在自体が、いろんなことを教えてくれた。
練習が終わって、一度監督の元へと集まる。
礼に始まり、礼に終わる。
これはどのスポーツでも同じ。
「樋口、今度の試合、エントリーするか?」
監督の声に、おれは背筋を伸ばした。
「エントリーさせてください」
今度の試合は新人戦の意味合いが強い。
出なくても、インターハイへの出場権に関係はない。
けど、優勝したい。
おれ自身のためじゃなく、みんなのために。
力になりたい。
「そうか。分かった。が、今練習中の新技はやめておけよ」
「はい!ありがとうございます!」
おれは試合に出るたびに新しい技をマスターする。
確かに1週間以上練習を休んだ体じゃ、ムリ。
でも、できることはある。
「監督」
「なんだ?」
「あの、みんなに言いたいことがあるんですけど」
「いいぞ、言ってみろ」
おれは一歩前に出て、振り返った。
「みんな、迷惑をかけてゴメン。それと、心配してくれてありがとう。今まで、おれ、一人だと思ってた。けど、それは間違いだった。今度の試合、できる限り頑張るよ。そして、みんなで優勝しよう」
しばしの沈黙。
どこからともなく拍手がわいた。
先輩たちは「あの樋口が・・・」と意外そうな顔。
後輩たちは自分たちが励まされたように喜んでる。
「お前、結構熱いヤツだな」
上野がおれの肩を小突いた。
「おれも知らなかったよ」
おれは今、対価を得た。




