接近(5)
「先輩・・・」
ハッと後ろを振り向くと、そこには女子。
・・・じゃない、根岸。
「はい、なんでしょう。根岸、サン?」
「先輩、私の名前、知らなかったんですねェ?」
うっわ~、睨んでるよ~。
「い、いや。忘れてただけ、です」
「初めて部活に出たときに、ちゃんと自己紹介したじゃないですかァ~!」
うん、そうだった。
・・・そうだったような気がする。
「私、先輩に早く知ってほしくて、中学のころから頑張ってたんですよ~。それなのにィ~」
根岸サンは肩を震わせてうつむいた。
「・・・泣かせたな。責任とれよ」
おれのせいですか?
「・・・こうなったら」
はい?
「私、もっと頑張ります!」
「は、はい。頑張ってください」
根岸サンはおれの腕を強引に取って、歩き出した。
・・・えーと。
なんか、この子のペースに振り回されてる。
「樋口、ホントに知らんのか?こいつを」
おれをはさんで根岸サンの反対側を歩いてる上野。
なんだか面白そうに笑ってる。
言葉にすると更に失礼な気がして、おれは無言でうなずいた。
「こいつ、中1までは無名だったけど、中2の中ごろから急成長して、中3で県大優勝しとるぞ」
ほほォ~。
そんな実力の持ち主なのか。
「しかも1年しか違わないのに、それを知らんってのはな。あきれたな」
だって興味なかったし。
これも言葉にできません。
けど、腕を引っ張られるってゆーシチュエーションはいいな。
こーゆー体験もしたことない。
同学年やおれの先輩たちは、いつもおれを遠巻きに見てた。
避けられてるワケじゃなかったけど、積極的に近づいてくることもなかった。
おれはいつも一人だった。
仲間なんていらないとも思ってたし。
けど、遠ざけてたのはみんなじゃなく、おれだった。
反省。
おれの心の視界が急に開いた。




