怒りのはずが・・・(2)
フラれたことは事実。
落ち込みはしたけど、毎日はイヤでも繰り返される。
そんな気分で仕事はできない。
おれは仕事に没頭した。
おれ、小森芳宏。24歳。
郊外大型スーパーの衣料品メンズカジュアルを担当してる。
けど、社員じゃない。パートなんだ。
男でパート。ちょっと情けない。
一応、スキルアップも積極的にしてるけど、やっぱり社員にはかなわない。
能力的にじゃなく、給料の問題。
だからといってこのままパートで終わるつもりなんてないよ。
将来のこともキチンと考えてる。
「・・・新しい人、見つけたら?」
「え、なに?」
聞いてなかった。
「だからさ、前のカレシのことなんて忘れて、新しい人見つけちゃえばいいじゃん」
ナイスアイデア。
・・・なんだけど、今のおれにはガイの存在は大きすぎた。
「今はいいや。おれの純粋無垢で壊れやすいハートは、まだボロボロ」
おれは胸に手を当ててもだえるしぐさ。
「助けて、キミちゃん」
おれは彼女の肩に手を乗せた。
「セクハラで訴えるぞ」
キミちゃんは冷たくおれの手を払いのけた。
「え~、ひっど~い!ゲイを差別すると、ゲイ能会が黙っちゃいないよ~」
「あっそ。そのくらいのジョークが言えるんなら、大丈夫ね」
おれがパートでここに残ってる理由その1。
おれがゲイであっても、誰も偏見の目で見ないこと。
最近はゲイに対する偏見は少なくなってる。
けど、組織の中では話は違う。
ゲイは自分を隠し続けなきゃいけない。
ヘタにカミングアウトすれば、出世の道も断たれる。
生きてる限り、リスクを背負う。
でもこの会社は違った。
正確に言えば、この支店が。
理解してくれた。みんなに感謝。
ホントにありがとって言いたい。
「ま、気が向いたら探すよ」
「そうしなよ」
少しは気分がラクになった。
おれは検品を終えて、商品を店内に運び込んだ。
季節は秋になりかけの9月下旬。
すでに冬物が出始めてる。
色合いも明るいものからダーク系へ。
薄手だけど、コート類もある。
ハンガーにかけたり、たたんだりして陳列していく。
そして最後に本社から指示されたテーマカラーにそってマネキンにディスプレイ。
おれはこの作業が一番好き。
テーマカラーは決まってるけど、使う服は決められてない。
てことは、おれの自由。
このディスプレイでお客の目を惹かなきゃいけない。
おれはメイン通路に面したマネキンにお兄系の服を着させた。
お兄系はおれの好み。
できた。
おれは仕上がったマネキンを上から下へと眺め見た。
・・・カンペキ。
ガイにはちょっと派手かな。
ガイのファッションセンスばバツグンだった。
その道で食べてるおれですら、感心を通り越して尊敬。
けど、おれとは好みが違って、シンプルなデザインを好んだ。
かと言って地味なんじゃない。
自分なりの着こなしを心得てるようで、周囲の目を惹きつける。
ガイ。ガイ。ガイ。
おれは無意識にその名を口にした。