せつない思い (6)
おれの体調はますます悪くなっていった。
でもガマン。ここはガマンだ。
おれの額には汗がにじんでた。
2時限まではなんとかクリア。
けど、3時限はもうダメだった。
ノートもまともに取れない。
眠さと息苦しさはマックス。
「樋口君、保健室に行きなさい」
見上げると、先生が立ってた。
英語教師の江田先生だ。
それでおれは今が英語の授業だって気がついた。
ノートは前の授業の数学のまま。
「でも・・・」
「いいから、行きなさい。保健の先生には連絡しとくから」
「・・・はい。すみません」
「ん~っと、・・・じゃ、中沢君」
「はい・・・?」
「樋口君を保健室につれてってあげて」
「なんでおれなんスか」
「あなた、私の授業なんてロクに聞いてないでしょ」
「聞いてますよ、少しくらい」
「少しならいい!ばかァ!」
きぃ~っと、江田先生はくやしそうだ。
「ほら、早くして!ちくしょ~」
ホントにくやしいみたい。
けど、それはやめていただきたい。
よりによって中沢・・・。
ドキドキする。
「一人で行けます」
重い体を机で支えながら、おれは立ち上がった。
ふらつくおれを江田先生が支えてくれた。
「ムリじゃない。中沢君、あなた私の授業を聞かない上に瀕死で華奢なお友達を助けてあげることもできないクズ野郎なの? 先生、悲しくて悲しくて、もう誰も信じられない」
江田先生は目だけで中沢を殺しかねない勢いだ。 半分くらいは恨みもって感じだけど。
ため息をついて中沢は面倒くさそうに、「どこが華奢なんだよ。体操部だぞ、こいつ」とつぶやきながら立ち上がった。
中沢はいつもの無表情のまま、おれの腕を取った。
「行くぞ。歩けるな?」
言葉とはウラハラに、支えてくれる手は優しい。
「う、うん」
ドキドキ。
こんなに接近したのは初めてだった。
『相手には言えないんだ』
笹川先生の声がおれの頭の中でよみがえった。
『よほどロミジュリな恋なのかな』
おれは顔を上げられなくなった。
今、ゼッタイ赤面してる。
これが恋というものか。
おれはホントに中沢に恋をしてるのか?
目の前がまっくら。
おれは保健室に着くまで、中沢と目も合わせられなかった。