せつない思い (5)
「あの、これ。ありがと」
おれは真木にCDを差し出した。
「お?聴いたか?」
「うん、聴いた」
「いい曲だろ?」
「うん、いい曲だった」
知ってた。
少しだけだけど。
けど、おれは「そんなの」と言ってしまった。
おれは今イチバン言わなきゃいけないことを口にした。
「この前はゴメン」
「ん?気にしてたのか?お前らしくないな。ま、おれもいきなりだったし。悪かったな」
違う。 真木は悪くない。
悪いのはおれだ。
「中沢にも謝らないと」
「中沢も気にしてなかったぞ?」
「でも謝りたいんだ」
「好きにしろよ。それでお前の気がすむんならな。それより、また次があったら、一緒に行こうぜ」
誘ってくれるのか?
おれには真木が天使に見えた。
真木の優しさが身にしみる。
ヒドイことをしたおれに、いつもと変わらない態度。
罪悪感だけがふくれあがる。
けど、今は真木の優しさに甘えることにした。
「うん、次はなにがあっても行くから」
「おい、席につけ~」
気がつくと、先生が教壇に立ってた。
「樋口、もういいのか?」
席に戻ったおれは、「はい」と答えたけど、聞こえなかったらしい。
大きく頷いてみせた。
「ヤバかったら言えよ。お前の担当の医者から連絡があったからな」
あの女医め。 よけいなことを。
「中沢は・・・と。まだ来てないのか?」
そうだ。中沢が来てない。
と思ったら。
「おはようございます!」
中沢は猛ダッシュで教室に滑り込んだ。
「・・・セーフっすか?」
その問いに、先生にニヤリと笑った。
「残念、アウトだ」
舌打ちして、中沢は席についた。
「ああ、中沢、それと樋口。進路希望、お前たちだけ出てないぞ。出しとけよ」
「あ、はい。すみません」
おれはうなずくだけ。
2年になったばかりだというのに、もう進路か。