せつない思い (3)
「今日、練習は?」
「ああ、あるにはあったんだけどな。練習終わってから見舞いに行くと、お前がツライだろうからって、監督が許可してくれた」
なるほど。監督はよく理解してらっしゃる。
おれはちょっとうれしかった。
こんなふうにされるのは初めてだったから。
そう思うと、なんだかチカラがわいてくる。
「明日は行けるから」
「練習はムリだろ」
「筋トレくらいならできるよ」
「そっか。ま、ムリすンなよ。あ、それともうひとつ」
はい、なんでしょう。
「お前のクラス、特に一部の野郎どもが錯乱してたな」
「なんで?」
「ノートの提出が間に合わんと叫んどった」
「寺本だな」
あいつはおれのノートなしじゃァ、試験も受けられない。
けど・・・。
「休んでるヤツのノートを頼ってどーすンだろ」
確かに錯乱だ。
でも、気分は悪くない。
頼られるってのは、結構うれしいモンなんだな。
「じゃ、おれら帰るわ。長居するのも悪いしな」
そう言うと、上野はスッと立ち上がった。
「今日はありがと。うれしかった」
おれは素直に言った。
この素直さがあのときにあれば、こんなことにはならなかったのにな。
「意外だな。お前が礼を言うなんて」
「うん、おれも意外」
学習した。
高い授業料だったけど。
「じゃ、樋口先輩、早く元気になってくださいね」
「ありがと」
結局、この子の名前、分かンなかったな。
「あ、そうだ」
部屋を出かけた上野が振り向くと、カバンをあけてゴソゴソとさぐってる。
「あった、これ。真木からだ」
クラスや部活は違うのに、上野は社交的らしい。
上野が持っていたのは、一枚のCDだった。
「やるんじゃない。あとで返せと言っておったが。お前、そーゆーのが趣味なんか?」
ジャケットは安っぽいプリントで、その中に「MASAKI NAKAZAWA OF MTR」と書いてあった。
中沢のCDだ。
「・・・いや、そーじゃないけど」
中沢の曲を聴けるなんて。
おれはうれしいはずなのに、今はちょっとフクザツ。
真木はどういうつもりなんだろ。
このCDを聴いて、中沢のよさを知れということか。
「じゃな」
「玄関まで見送るよ」
「寝てろ」
「う、うん。ありがと」
おれ、なんだか、急に弱くなった気がする。




