罰(7)
「なんのことですか?」
「キミね、分かりやすいのよ。好きな人がいるんでしょ?でも、言えないんだ」
・・・え?
「まァ、恋をして喘息ってのはムリがあるけどさ、よほどロミジュリな恋なのかな」
略すな。
「おれは誰も好きになってませんよ」
と言った瞬間、笹川先生はおれを直視した。
おれは目をそらしてしまった。
「相手に問題あり?それとも自分に問題あり?」
そーいやァ、この先生、臨床心理士の免許も持ってたっけ。
目の動きや表情ひとつで、本人でさえ気づかない心の動きをとらえる。
やっかいな人だ。
「どちらにしても、告白ができない相手か」
カルテを閉じて、笹川先生はマジメな顔で言った。
「こりゃムリだわ。わはは~だ」
さ、帰ろっと。
おれは荷物を手に取って立ち上がった。
「薬出しとくから。なくなったらまた来るようにね。それと、もう少し、自分を知りなさい」
「分かりました。ありがとうございました」
それだけしか言えなかった。
おれの中で笹川先生の言葉がリピート。
恋だって。
誰に?
思った瞬間に浮かんだ顔。
中沢。
・・・・・・!
まさか、そんな。
中沢は男だぞ。
ついでに言うと、おれも男。ついでじゃないけど。
男VS男。
ありえない。
これが恋とするなら、おれのこの一年の中沢観察の理由も分かる。
プラス。
これが恋とするなら、真木と中沢が一緒にいたときのあの感情。
あれが嫉妬とゆーヤツか?
プラス。
中沢にそっけない態度をして、自分にハラを立てた。
イコール、・・・恋。
よくできました。
100点満点。
おれの視界が急にモノクロになった。
先生ありがとう。
おれは自分が分からなくなりました。