罰(4)
その日の練習は、普段とは違う形で監督やコーチの目にとまることとなった。
「お、おい、樋口、大丈夫か?」
吉井コーチが駆け寄ってきた。
大学出たての新任コーチだけど、おれのことは中学の頃から知ってくれてる。
「大丈夫です」
ウソつけ。
体が思うように動かない。
呼吸がうまくできない。
「顔があおいぞ。熱でもあるのか?」
と、吉井コーチはおれの額に手をあてた。
いつもは機敏に練習するおれがこのありさまなら、なにかあったと思うのは当然だろうな。
「熱はないな。珍しいな、お前が調子崩すなんて」
「大丈夫ですから」
今日ほど吉井コーチをうとましく思ったことはなかった。
かまわないで欲しかった。
おれは振り返って練習に戻ろうとした。
床が揺れた。
いや、違う。
おれが・・・。
「樋口!」
部員たちの視線が集中するのが分かる。
おれはブザマにも床に倒れてた。
見るな。
おれは床をつかみ、立ち上がろうと、腕に力をこめた。
腕は震えるだけで、反応しない。
そして、胸からのどへ異音。
苦しさは倍増。
額に汗がにじむ。
おれは何度もせき込んだ。
止まらない。
「樋口、薬は?」
吉井コーチが抱きかかえてくれた。
持ってません。
そう言おうとしたけど、声にならない。
だからおれは首を横に振った。
「バカか、お前は!常備するように言われただろうが!」
今日、二度目だな。
怒られたの。
おれの冷静な部分がそう言ってる。
「監督!」
吉井コーチが監督を呼んだ。
監督はもう状況を理解していた。
理解していない部員たちが、遠巻きにおれを見てる。
おれの異変に驚き、いつもと違う目でおれを見てた。
「喘息か。吉井コーチ、悪いがこいつを送ってやってくれ」
「分かりました」
「大丈夫です」
全部言い切る前、せきが邪魔をする。
「帰れ。今のお前はなんの役にも立たん。役に立ちたいのなら、まず発作を止めろ」
冷ややかだけど、正しい。