追憶(7)
朝8時。
登校したおれはいつものように、朝礼が始まるまでの間、復習してる。
昨日暗記したものがきちんと能に定着してのか確認。
・・・してるね。
まだ教室内に人は少ない。
来てるヤツもいるけど、机につっぷして寝てる。
おれは次第にソワソワ。
教室の扉が開く。
そして閉じられる。
イスを引く音。座る音。
ドキッ!心臓がはねる。
来た!
おれは目だけをそっと右へ。
中沢だ。
中沢は普段とまったく変わらず、目を閉じてイヤホンをつけてなにやら聴き入ってる。
よほどノリがいい曲なのか、頭を弾ませてる。
中沢はスルドイ。
目をあけると、迷わずおれを見た。
おれはとゆーと・・・。
首がちぎれるんじゃないかってくらいに頭を振って目をそらした。
つまり、おれはいつの間にか、目だけじゃなく頭ごと中沢を見てた。
・・・マヌケすぎる。
ど、どうしよ。気づかれたよね。ゼッタイ気づいた。
うん、気づいた。
怒られるのかな、おれ。
・・・なんでよ。
おれ、怒られるようなことしてないし。
じゃ、なんでおれがビビらないといかんのよ。
内心、プチパニック。
プチパニックって、プラトニックと語呂が似てるな。
あ、いや、そーゆーことじゃなくて。
そ、そうだ。
どうどうとしてればいいんだよ。
どうどうと。うん。落ち着け、おれ。
小さく深呼吸。スーハー。
強引に気持ちを落ち着かせると、おれの心の乱れを見てたかのように、中沢は小さく笑って再び目を閉じた。
・・・笑われた・・・?
あれは嘲笑ってヤツか?
鼻でフッと小さく吐くような笑い方。
嘲笑
↓
あざける笑い
↓
バカにされてる。
おれ、バカじゃないぞ。・・・多分。
「おー、中沢ァ」
部活の朝練から帰ってきた真木が、めったに口を利いたことのない中沢に親しげに近づいていく。
おれは復習のフリをして、耳だけは中沢と真木へと集中。
けど、真木の言葉におれはぶっ飛んだ。
「おい、今度のライブ、出るんだろ?チケットあるなら買うぜ」
ライブ?ライブとはあれか?コンサートのちっこい版みたいなヤツ?
・・・・・・。
えぇ~っっっ!!!
「はいよ、一枚千円」
中沢はなんでもないようにチケットを取り出した。
え?なに?みんな知ってンの?
ゴン。
おれは脱力して机に頭をぶつけた。
「よう、樋口。ノート・・・。なにやってんの?」
こいつは寺本。いつもノートを借りに来る。
「・・・いや、なんでも」
おれはノロノロとノートを取り出した。
そっかァ。おれだけのヒミツじゃなかったんだ。
そりゃそうだよね。他校の生徒が知ってるくらいだもん。
おれはなんだか悲しかった。