21章 1つへ・・・(4)
「・・・やっぱり、お前、樋口だったんだな」
ぼそりとつぶやくガイの言葉は静かだった。
「なんですぐに言わなかったんだよ」
「だって、過去を詮索しない。それがゲイとして生きることだから」
おれと中沢の過去と現在が繋がっていれば、いつか互いにカミングアウトする日もあっただろう。 けど、離れていた数年間は長すぎた。
知らない者同士でも、過去のどこに接点があるのか分からない。
まして、おれたちは・・・。
ゲイは外に対して警戒しないといけないんだ。
バレないように。 バラされないように。
「中沢は過去を忘れようとしてると思った。だから尚更言えなかった。昔の話をすれば、必ず中沢の存在が出てくる。中沢が忘れたい過去を、おれが掘り返すなんてできなかった」
ガイは過去を一度たりとも話そうとはしなかった。
それは知られたくないという意思。
だからおれも過去を話さなかった。
中沢は両手を強く握っていた。
あまりに強く握った拳は、震え、白くなってる。
「・・・バカか、お前は」
腕を振り上げ、ベッドを叩いた。
何度も。
何度も。
左手首の包帯が、血で赤く染まった。
「・・・中沢、やめようよ」
「うるさいっ!」
止めようと手を伸ばしかけたおれは凍りついた。
本気で怒ってる。
初めてみた。
中沢のこんな顔。
ホントにおれ、中沢に悪いことをしたんだ。
おれの言葉も聞かず、中沢は何度もベッドを打った。
──もういいから。
もうやめてよ。
自分を傷つけるのは。
おれは中沢の手を押さえた。
「お願いだから。やめてくれ。な?」
中沢は泣いてた。
「・・・なんで言ってくれなかったんだよ。おれはお前にツライ思いをさせてばかりじゃないか」
中沢の腕から力が抜けた。
「・・・なんで気づかなかったんだよ、おれ。こんなにも近くにいたなんて。おれ、なにも見てなかったんだな。・・・バカなのはおれか」
中沢の手がおれの頬に触れた。
「ゴメンな、樋口」
「・・・中沢は悪くない。悪いのはおれなんだから」
どうしようもなく溢れる涙が、中沢の手を濡らした。




