20章 タイム・クロス(7)
眠り続ける中沢を見下ろして、おれはベッドから離れた。
スライド式のドアを開けると、廊下で話す2人がいた。
「どういうことですか?」
壮年の男は、もちろん中沢のお父さん。
となれば、おれより年上に見える青年が木崎さんか。
木崎さんはおれを見るや、顔を覆った。
聞かれちゃマズイ会話だったらしい。
「誰だね、君は?」
「彼は雅樹さんのご友人の小森さんです。雅樹さんを助けてくれたのは彼ですよ」
木崎という青年が紹介してくれた。
なるほど。 聞き覚えある声のはずだ。
木崎さんは「ミサキさん」だったんだ。
鋭い目つきは影をひそめ、お父さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「それは失礼しました。それと、息子を助けていただき、ありがとうございました」
そんな言葉も、おれには上っ面だけにしか感じられない。
「申し訳ありませんが、このことは内密に願いますか?」
「構いません。口外して得することなんてありませんから」
「ありがとうございます。後日、お礼に参りますので、今日のところはお引取りを・・・」
「どういうことかと、お聞きしましたが?」
「は?」
「息子さんを呼び戻すために、騙したんですね?」
「な、なにをおっしゃってるのか・・・」
そんな反応も、おれの予測範囲内で面白くない。
「あなたは、息子さんの未来を二度も奪ったんですね」
「二度って・・・。なんのことだか。それに小森さん、助けていただいたことには感謝いたしますが、これは身内のことですので・・・」
それがどうした。
「彼、言ってましたよ」
おれはお父さんを睨んだ。
「両親に感謝してると」
おれの直視に耐えられなかったのか、お父さんは目をそらした。
「騙されてると気づいてるのに、裏切られてると知ってるのに、彼はそう言ったんですよ」
おれはお父さんの胸倉をつかんだ。
「小森さん!」
ミサキさんが間に割って入ろうとしたけど、おれはさせなかった。
「言ったはずです。今を作ることができるのは、若者の特権だと」
お父さんの目が一瞬遠くなり、そしておれを見た。
おびえるような目だった。
「き、きみは・・・」
「中沢の人生は中沢のものだ。あんたの好きにはさせない」
おれはお父さんを突き放した。
「あなたでは息子さんを助けることはできませんよ」
もう、この男に用はない。
「木崎さん、今日は帰ります。また来ます」