20章 タイム・クロス(6)
バタバタと数人が近づいてる。
夜中の病院ではそれだけでもうるさいくらいだ。
それにも構わず、声を上げてる。
おれは見えないドアの向こうを睨んだ。
迷惑なヤツらだ。
「木崎くん、どういうことかね、これは」
「申し訳ありません」
「とにかく、会社にはこのことは内密だ。こんなこと、言えるものか」
「あなた、今は会社のことなんていいじゃないですか」
「何を言ってる!次期社長が自殺未遂なんて恥ずかしくて言えるか!」
病室の外での会話は、イヤでも耳に入った。
少しいらだったような声。
聞き覚えがある。
中沢のお父さんだ。
優しそうな声は、多分お母さん。
そして、もう一人、聞き覚えのある声。
けど、この場で聞くには意外な人。
「お前はナースセンターで手続きを取ってきなさい」
「・・・分かりました」
言葉のニュアンスでも分かる。
お父さんの態度に不満を持ってるお母さん。
それでも従わざるをえない。
「木崎くん、君がいながらこの結果か」
「申し訳ありません」
「なんのために雅樹を呼び戻したと思ってるんだね。これでは私のしたことも無意味だ」
「ですが、社長。これ以上雅樹さんを苦しめるようなことは・・・」
「私がいつ雅樹を苦しめた!」
場もわきまえず、お父さんの語気が激しくなった。
「あいつに次期社長としての自覚がないから、私がサポートしてやっとるんだ。親として、当然のことだろう」
愚か者。
お父さん、知らないとはいえ、あなたは愚かすぎる。
病室の外で交わされる会話に、怒りを覚えながら聞き入った。
「・・・社長」
木崎と呼ばれた人のため息が聞こえた。
「なんだね」
「雅樹さんが、気づいてないと思っていらっしゃるんですか?」
「なにをかね?」
「雅樹さんが帰ってきた原因を、です」
「・・・ま、まさか」
「もうとっくに気づいてますよ。ウソだったと」
!!
そうか。
そういうことか。
中沢、ゴメン。
お前のお父さんだけど、おれは許さない。
中沢の未来を奪った男を。