追憶(6)
夕飯を食べ終わると、おれは風呂に入って部屋に引き上げた。
テレビにはあまり興味はない。
「さて、宿題でもしよっか」
おれはカバンからテキストとノートを取り出した。
中沢は今も歌ってるんだろうか。
時計を見ると、10時をすぎてる。
さすがに高校生がどうどうと街中を歩けるような時間じゃない。
と思ってるのはおれだけか。
時々見るテレビでやってた。
ドキュメンタリー番組で、内容は深夜に徘徊する若者たち。
どう見ても高校生とか中学生にしか見えない子が、夜の街を平然と歩いてる。
ほかにやることはないんかな。
おれは聞きたかった。
夜の街を歩くことが使命なんだろうか。
それにしても、得るものがないぞ。
一見無意味に見える行動にも、なにかの理由があるのかもしれないし。
さ、宿題っと。
おれの宿題は復習がメイン。
その日習ったことをマル暗記。
文系なのか、数学が苦手だけど、理解するより早く数式のパターンを暗記する。
理解はあとからついてくる。
白紙の安いノートに何度も数式を書き込む。
そして、手が止まらなくなったら、次の数式。
20分後くらいに確実に覚えてるかどうか、答えも見ずに書いてみる。
書けたら覚えた証拠。
この繰り返しだ。
この暗記法は他の教科にも使ってる。
2時間かけて今日習ったことをマル暗記した。
日が変わってる。
中沢はちゃんと宿題したんだろうか。
・・・いや、心配するだけ損か。
あいつはホントに頭がいい。
授業なんてロクに聞いてないはずなのに、宿題や提出物はきっちりやるんだ。
それだけじゃない。
テストの点数もいい。
おれみたいに地道な努力を必要としない人間なんだろうな。
本気になって勉強したら、おれはあっさり首位の座を明け渡すことになるな。
・・・ん?
なんで中沢を引き合いに出してンだろ。
ライバル視ってヤツか?
それは違う。
おれには競争心ってのがない。
スポーツ選手としては致命的な欠点だけど、おれの場合、勝ってるからいい。
余裕ぶってるわけじゃないけど。
なんでかな。
中沢が気になる。
気になり始めると止まらない。
おれ、なんかヘン。
中沢のことを考えると楽しくなる。
こ、これは。この気持ちは・・・。
なんだろ。分からん。
寝よ。