20章 タイム・クロス(5)
「もう大丈夫です。出血も致死量ではありませんでした。睡眠薬は胃洗浄でなんとかなりましたが、吸収された分で明日まで目を覚まさないでしょう。ですが・・・」
先生の言わない先を、おれは読んだ。
「心のケアが必要ってことですね?」
「そうです。自殺は繰り返すんです。それは体とは無関係ですから」
おれは深く、長い息を吐いた。
とりあえずは切り抜けた。
今、中沢は生きてる。
それでいい。
けど、これからがある。
ベッドで眠り続けるガイ。
いや、中沢。
「お大事に」
先生はそう言って、部屋から出て行った。
おれ、なにやってたんだろ。
中沢がこんなになるまで、気づいてあげられなかった。
中沢は強いヤツだと思ってたから。
こんなこと、しないと思ってたから。
全部、間違ってた。
ゴメン。
中沢。
おれは布団から出てる左手に触れた。
腕には点滴の針が刺さってる。
少し、痩せたかな。
数年前は、引き締まった体だった。
日サロにでも通ってるかのように、健康的な小麦色の肌。
スレンダーな体はほどよい筋肉で包まれ、カッコイイを通り越して美しささえあった。
体操を辞めてからは、おれはそんな体を目指して改造したくらいだった。
すべてがおれの憧れだった。
今もそれは変わらない。
けど、腕は細くなり、頬もやつれてる。
前に「ノエル」で会ったとき、こんなだったかな。
見てるようで、見てなかった。
あのとき、ちゃんと見ていれば。
中沢の異変に気づいたのかもしれない。
結局、おれは自分が傷つきたくないばかりにガイを遠ざけてしまった。
どうやって償ったらいいんだろ。
冷静に考えれば、この結果はおれの責任じゃない。
けど、この罪悪感をねじ伏せる説得力なんてなかった。
心が痛い。
中沢、生きてくれ。