20章 タイム・クロス(4)
ばかだな、ガイ。
死んだら、負けだよ。
けど、 死なせない。
おれはなぜか落ち着いていた。
頭で考えるより体が先に動いてくれた。
タオルを持ち出して切った左手首に巻いた。
意識のないガイの足元にくだものナイフが転がってる。
ガイの胸に手を当てて、鼓動を確認した。
弱いけど、動いてる。
生きてる。
ケータイで119番。
淡々と状況を説明する自分がいる。
なんでこんなに落ち着いていられるんだろ。
バスルームからガイを引きずり出した。
濡れた服を脱がそうとしたけど、服は肌に密着して脱がしにくい。
諦めてベッドルームから毛布を持ってきて、ガイをくるんだ。
救急車が来るまで最短で10分。
それまで、おれのできること。
「ガイ、死んじゃダメだよ。・・・ガイ、起きてよ。ねェ、ガイ。ガイってば!」
頬を叩き、ガイの意識を「外」へと向けるように。
何度も何度も、ガイをゆすり、頬を叩いた。
けど、ガイは起きない。
おれじゃ、ダメなの?
『ケンジは樋口クンを忘れられないんだ』
ミサキさんの言葉が響いた。
『ヒロ』がダメなら、『樋口』がいる。
おれは心の中からガイの知る樋口を解き放った。
「中沢、起きろ。覚えてる?おれ、樋口だよ。会いにきたよ」
目を閉じたまま動かない中沢の右手を握り、抱きしめた。
「中沢、言っただろ?一緒に大人になろうって」
神サマなんて、信じてない。
けど、もし、いるなら。
お願いだ。 ガイを、
ガイを返して。
目を覚ませ。
中沢。
中沢!!
「・・・ぐ、ち・・・?」
中沢の口から、弱々しい声が聞こえた。
不確かな発音だったけど、何を言ったのかすぐに分かった。
「ああ、樋口だよ」
中沢は目を覚ましたワケじゃなかった。
けど、意識が「外」へと向き始めてる。
おれは、中沢の唇に自分の唇を軽く押し当てた。
「会いたかったよ」
そう言いながら。