20章 タイム・クロス(1)
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「今度は離すなよ」
ミサキさんはおれの手にカギを落として帰った。
「仕事中なんでね。あまり空けると怒られるから」
なんて笑いながら。
おれの手の中にあるカギ。
ギュッと握り締めた。
よし。
会おう。
すべてはそれからだ。
ケータイを開いてガイの電話番号を表示させた。
・・・だけど。
緊張して何から話していいのか分からない。
番号を消してメール画面に切り替えた。
<ガイ、ゴメンね。ガイの気持ち、ちっとも分かってなかった。ホントにゴメン。今から会いたいんだ。>
震える指で何度も打ち間違えた。
そして送信。
返事来るかな。
ただ待ってるだけだと、つらくなってくる。
閉店作業をしながら返事を待った。
ドアのプレートを裏返して「close」
レジ精算。
いつもの作業が手につかない。
その間もおれはケータイから目が離せなかった。
けどケータイは鳴らない。
・・・やっぱダメか。
ミサキさん、ゴメンね。
カギまで用意してくれたのに。
一度切れた糸は、もう結んではくれないのかな。
深いため息。
諦めかけた。
♪~♪~
!
この着信音はガイだけのもの。
メールじゃない、電話だ。
おれはケータイめがけてダッシュ。
「もしもし!?」
『・・・・・・』
「ガイ、なんだろ?」
間違いないのに確認してしまった。
『・・・ゴメンなァ、ヒロ。おれがもう少し強かったら、こんなことにならなかったのに。ゴメンなァ』
「なに言ってンだよ。おれだって、ガイの気持ち、分かってなかった。今から会いたいんだ」
『・・・・・・』
なんだろ。
ガイ、なんかヘンだ。
『もうダメだよ。これ以上、みんなを不幸にしたくないんだ。おれのこと、忘れなよ』
ガイの言葉を聞くほどに、違和感が増してくる。
「ガイ、どうかしたの?」
『・・・なんでも、ないよ』
気だるげな声だ。
眠そうな声にも聞こえるけど、これは違う。
おれの直感が警告音をかき鳴らした。
「今から行くから!」
『ありがとな、ヒロ』
互いの言葉が重なった。
それでも構わず、おれは電話を切った。
ぜったい、おかしい。