19章 不安(7)
ガイの淹れてくれたコーヒーを飲みながら、おれたちは、ただ寄り添って座ってた。
「・・・おれね」
「ん?」
唐突にガイは話し始めた。
「母親とは血がつながってないんだ」
「・・・そうなんだ」
知ってるよ。
「でもさ、お袋は、それでもおれを大事にしてくれたんだ。感謝してる。昔、バンドやってたって、言ったよね?」
「うん」
「ホントは親父、反対してたんだ。けど、許してくれた。お袋の説得もあったと思うんだ。最後には理解してくれたよ。やりきったと思ったら、戻ってこいって」
「いいご両親だね」
「うん、おれにはもったいないくらいの両親だ。二人には感謝しきれない」
ガイにとって、ご両親は大切な存在なんだ。
おれが母さんを大事にしてるように。
「大切にしないとね」 おれは「ヒロ」として、そう言った。
それしか言えなかったから。
そして、ちょっと寂しかった。
「樋口」のこと、一言もしゃべらないんだね。
当然か、ガイにとって、「樋口」は過去の人。
しかもただのクラスメイトだ。
ま、しょーがないかな。
ガイはおれから少しだけ体を離すと、おれの手を強く握った。
「・・・そうだね」 なんで、寂しそうな顔、するんだろ。 おれ、間違った答え方、したかな? そんなこと、ないよね。 強く握った手を引っ張って、ガイはおれを抱きしめた。
「ヒロ、いつまでも一緒にいたいよ」
「いるよ。ずっと。おれはどこにも行かないから」
初めて聞く、ガイの弱い声。
おれはガイを抱きしめた。
強く。
強く。
息がつまるくらいに。
それがおれの思いだって伝えたい。
けど、なんだろ、この胸騒ぎは。
なにかが変わってきてる。
おれの直感が訴える。
けど、それがなんなのか、分からない。
ガイは、ずっとおれを抱きしめた。
でも、その間も、寂しそうな顔をしてた。
二人の体には隙間はなかった。
けど、心には、秋風のような、少し冷たい風が吹きぬけていた。