追憶(3)
やめちゃおっかな。
そう思ったのは一度じゃない。
最初は楽しかった。
特に床運動での宙返り。
空中を自分のイメージどおりに舞うのは爽快。
試合でも、広い床を独り占めしたかのような優越感に浸った。
けど・・・。
最近はつまらない。
試合ごとに持ち帰る賞状を母さんに見せると、すごく喜んでくれた。
それはそれでうれしい。
そして言うんだ。
「よっくんはすごいね。今度もまたできるよね」
はい。できます。
やってみせます。
母さんは気づいてない。
その言葉が一番キライなことを。
気づかせちゃいけないんだ。
母さんを喜ばせるのがおれの役目。
だから勉強だって頑張った。
クラスでは常時1位だし、学年でもトップ5から外れたことがない。
すべて母さんのためだった。
だから体操もやめられない。
勉強もおろそかにできない。
おれは意思のないロボットと同じだった。
・・・そっか。
だからか。
中沢が気になる理由。
彼は自由だ。
少なくとも、おれにはそう見える。
先生になんと思われようと気にしない。
いつもマイペース。
自分のスタイルを崩さない。
うらやましい。
そう思った。
プロテクターを買い終えて店を出ると、もう暗くなっていた。
午後6時30分。
学校を出る前に買い物するからとは、母さんに電話しておいたから大丈夫だ。
人通りは更に多くなり、学生やサラリーマン、OLでいっぱいだ。
おれは来たときと同じ道を歩きだした。
しばらく歩くと、どこからかギターの音色。
ストリートミュージシャンかな。
そういうのって、見るのは初めてだ。
歌声も聴こえる。
おれは初めての体験にドキドキしながら、半円に囲う人たちの後ろに立った。
どんな人なんだろ。
叩きつけるようなギターの旋律。
けど、ぜんぜん耳障りじゃない。
声もそうだ。
優しく、そして寂しげでもある。
聴いてる人にそんな感情を与えるほど、歌ってる人の声は感情豊かだった。
おれは背伸びしながら、囲みの中心にいる人を見た。
店と店の合間に座り、ギター1本で歌い続けてる。




