9.割とまともだった件
次の日、俺は篠原さんに呼ばれ、凜と共に、彼女の部屋へと訪れてた。最初は俺一人で行くことになっていたのだが、凜が「私もついていくわ。」と言い聞かなかったので結局、俺が折れる形で話がまとまった。
「篠原さん、冤罪を晴らすっていったって何するんだ?あれから相当時間もたってるし、今更周りが信じるとは思わないぞ。」
「逆だよ、高木くん。信じてもらうために今こうして集まってるんでしょ。それはそうと、なんで高木くんにしか伝えてないはずなのに、ここに凜ちゃんがいるの?」
「あら。蓮が放置してた問題を久しぶりに自分から進んでやろうとしてるのに、それを手伝わない幼馴染はいないわ。」
言うまでもなく堂々としている凛。それを見てさらに声が上がる篠原さん。なんか話自体は重いはずなんだけど、こういう茶番?が入るとなんだが真剣味が無くなるな。
「その、幼馴染っていうのずるくない!?便利すぎでしょ!それにこの件に関しては凜ちゃんは関係ないでしょ!」
「でも、事情を知ってるのに、困ってる蓮を放っておくのも幼馴染として気が引けるわ。それに人手は多いことに越したことはないわ。」
「それは、確かにそうなんだけど...もういいや...好きにして...」
「えぇ、好きにさせてもらうわ。」
篠原さんは姿勢を一切崩さない凜に、諦めて項垂れた。まぁ、困ってるっていうのは間違いじゃないし、実際手付かずの状態なんだが。家事もこなしてくれ、その上、ここまで世話を焼かれると、なんというか男としての威厳が無くなるな...
「で、俺は何をすればいいんだ?俺も一応考えたんだが、まずは篠原さんの意見を聞きたい。」
「そうね。私も先に美月から聞きたいわ。」
篠原さんは頷き、自分の考えを喋りだした。
「えっとね、警察に話してみるのはどうかな?むこうは調べればわたしの事もすぐに分かるだろうし、あの時の状況をちゃんと説明すれば、動いてくれるんじゃないかな?なんせ、誤認で罪もない未成年の子供を疑いにかけたってなると相当やばいし、警察の威厳にも関わるからね。」
「「・・・・・・」」
俺はそれを聞いてとても驚いた。篠原さんには失礼だが、彼女がここまで頭が回ると思っていなかった。正直、「わたしが犠牲になって、犯人をおびき出す!」とか、そんな曖昧で非現実的なことを言い出すと思っていた。
凜も同じことを思っていたのか彼女も結構驚いていた。言っては何だが、篠原さんは雰囲気がほんわかしていて、あまり賢そうに見えないからな。そして篠原さんは俺たちの反応を見て、声を上げた。
「ねぇ!?なにその反応!?ひどくない!?どうせわたしの事、馬鹿だと思っていたんでしょ!?流石にその反応で分かるからね!」
「い、いや違うぞ。ただ、俺と考えが一緒だったから驚いただけだ。決して他意はない。」
「そうよ。美月にしては珍しいって思っただけでそれ以上それ以下でもないわ。」
せっかくの俺のフォローが台無しじゃないか。俺はできるだけ小さい声で篠原さんに聞こえないように、凜に苦言を呈する。
「(おい!それだと遠まわしに馬鹿って言ってるのと変わらないだろ。もう少し言葉を考えてやらないと傷付くぞ。)」
「(それ以外思いつかなかったんだから、しょうがないでしょ。それに蓮も同じこと思ってたじゃない。大体、美月からまともなこと聞けると思ってなかったんだもの。)」
「小声で話してても聞こえてるからね!?ふん!もう怒ったからね!高木くんの事なんかもう知らない!」
おっと、流石にそれは困る...か?いや、困らないな。俺としては別にこのままでも構わないしな。でも篠原さんの事情を知っている手前、今更やっぱやめるってのは失礼だな。よし、どうにかして機嫌を直してもらおう。
「篠原さん、好きなお菓子でもアイスでもなんでも買ってあげるから、許してもらえないか?」
「そうね。私の謝罪の分も含めて、蓮が奢ってくれるわ。だから、許してもらえないかしら?」
当たり前のように堂々と言い放つ凜。おい、なんで凜の分まで俺が払わないといけないんだよ。それはおかしいだろ。自分で払え。
「わたしを小さい子供か何かだと思ってる!?そんなので絆されないよ!」
そう言ってさらに怒った様子を見せる篠原さん。ふむ、これではダメなようだ。他に何かあるか?どうしたものか...俺が頭を悩ませているとそれを見かねた篠原さんはため息をついた。
「もう、いいよ...なんか疲れてきたし...それより、いつ動く?わたしとしてはできるだけ早い方がいいんだけど。」
「そうだな、今日はもう無理だし、一週間後でいいんじゃないか?」
「そうね。私もそれがいいと思うわ。」
「OK!一週間後ね。じゃ、そういうことで!今日はもうこの話はおしまい!」
そこで立ち上がり、どうしたのか玄関に向かって歩き出す篠原さん。俺と凜は疑問に思いながらそれを目で追いかける。話は終わったからさっさと帰れということだろうか?あまり長居するつもりはないが、てっきりもう少し適当に雑談でもして帰るのかと思っていたが彼女はそうではないらしい。
そんなことを考えていると、篠原さんが途中で振り返り、俺たちを見て頬を膨らませ、不満そうな顔をした。
「なんで付いて来ないの!?お菓子でもなんでも買ってくれるんじゃなかったの!?あれは嘘だったの!?」
そうではなかったらしい。どうやらさっきの件はまだ気にしていたようだ。結局、絆されているじゃないかと思った。俺はおそらく同じことを思ったであろう凜に顔を向けた。すると、彼女もこっちを向いていた。俺たちは顔を見合わせた状態で笑いあった。
「二人だけで分かり合って、勝手にいい雰囲気作らないでくれる!?ここ、わたしの家だよ!?」
そんなつもりはなかったんだが、篠原さんにはそう見えたらしい。そして、俺と凜は立ち上がり、彼女の後を追った。
「何でもとは言ったが、さすがに遠いところのは無理だぞ。せめて、ここら辺で買えるものにしてくれ。」
「わーい!やったー!なら駅前にあるクレープ屋がいい。」
「わたしも貰うわ。」
「そこ!どさくさに紛れてたかろうとするんじゃない。......まぁ、ついでだから買ってもいいか。」
「ふふ」
俺がそういうと篠原さんはまたもや不満そうな顔をした。どうしたのだろうか?奢ってあげるというのになんでそんな顔をするんだ?...まさか一つだけじゃ足りないのか!?強情なやつめ。それにしてもクレープか...俺も食いたいな。
「高木くんってなんか凜ちゃんに甘くない?」
スイーツだけにってか?そんなくだらないことを考えていると、俺の思考でも読んだのか、篠原さんはさらに冷たい視線を送ってきた。ごめんって...
「そんなことないだろ。俺も買うつもりだし。それに凜だけ買わないってなると気まずいだろ。」
「そうだけど...なんか違くない?」
「なにが違うんだ。」
いよいよ、訳が分からなくなってきたので、話を切り、俺たちはスイーツを求めて、駅に向かって行った。
駅に着くと、篠原さんの情報通りクレープ屋があった。そこで、俺はバナナクレープ、凜はマンゴークレープ、篠原さんはイチゴクレープを頼んだ。
「美味い。」
「うん、美味しい。」
「美味しいわね。でも...」
全員「美味しい」とは言ったものの、凜はだけは何か違うみたいだ。なんというか、物足りないというか、そんな表情。たまにあるんだよな。嫌いじゃないし美味しいんだけど、自分の口に合わない感じ、違和感といえばいいのか。まぁ、今の凜みたいな感じ。
せっかく、ここまで買いに来たのに、満足できないのはなんだか不憫だな。しょうがないな...
「凜、俺と交換するか?」
「そうね。そうしてくれると助かるわ。」
そして、俺は自分のを凜に渡し、凜の分を受け取った。そこで、篠原さんが大きい声を上げた。どうしたんだ急に?
「ちょっと待ってい!?何普通に交換してんの!?間接キスじゃん!なんでそこに躊躇いが無いの!?これってわたしがおかしいのかな?あと、ナチュラルに人前でいちゃつかないでくれる!?少しは気を遣おうよ!」
「「気を遣わなくていいのが幼馴染だろ(でしょ)」」
「そこでハモらないでくれる!?」
そのあとも何かとギャーギャー騒いでくる篠原さん。俺と凜はそれを聞き流しながら帰路について行った。
もしかして篠原さんはツッコミ担当?
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