7.計算高い幼馴染
凜との約束の日の朝、俺は重い体を起こし、顔を洗おうと思い洗面所の扉を開けた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
突然だがここで俺の部屋の解説をしようと思う。リビングにキッチン、それに各自室がしっかりある。しかし、今いる洗面所には少し問題がある。いや、おかしくはないんだが、この状況の場合を見ると問題があるように思える。うちは洗面所があって、その奥に横開きの扉を挟んで、風呂場がある。つまり何が言いたいかというと、おそらく、朝シャンをして上がったであろう、バスタオル姿の凜とばったり出くわしてしまった。
何が起こったのかようやく理解した俺は、まず会話を試みることにした。
「おはよう、凜。そして、とりあえず言い訳をさせてくれ。だから、その握り拳を収めてくれ。」
「さっさと出ていきなさい!!」
顔を真っ赤にした凜が襲い掛かってきた。俺はとんできた右ストレートを避けることができず、そのまま殴り飛ばされた。それにしても大きくなったな。もちろん、何がとは言わないが。
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「何か言うことはあるかしら?」
俺は床に正座させられ、今まさに怒られている最中である。
「悪かったとは思っている。でも俺の言い分も聞いてほしい。」
「いいえ、聞く必要はないわ。理由はどうであれ、乙女の裸を覗いたのは確かだもの。」
「・・・・・・」
そう言われると痛いんだが、少しくらい聞いてくれてもいいじゃないか。彼女にはもう少し寛容さを身に付けてほしい。
「何か言ったかしら?」
「いや、何も言ってない。」
今度は、さっきよりも眼光を強くしてそう言った。おかしい、口には出していないはずなのに。俺の心でも読んだのだろうか。であればやめていただきたいものだ。
「そう、なら罰として朝ご飯を作って頂戴。」
「わかった。」
そんなことで許してもらえるのか。まぁ、それで機嫌を直してくれるのなら安い方か。俺はさっそく、彼女の機嫌を直すため、動き出した。ちなみに、俺は自慢ではないが料理ができない。なんなら、初めて料理を作ったその日から、二度とキッチンに入るなと言われたこともある。ならどうするかというと、もちろんカップラーメンである。ポットに水を入れ、お湯を沸かそうとしたところで凜に止められた。
「待ってちょうだい。そのお湯は何に使うつもりかしら?」
「決まっているじゃないか。もちろんカップラーメンだぞ。もしかしてラーメンは嫌だったか?なら焼きそばもあるぞ。」
そう言った俺を見て、凜は大きくため息をついた。ふっ、もしかして俺の手作りを期待していたのか?かわいいやつめ。悪いがそこまで期待してもらっては困る。なんせ俺は料理の才能を天に置き忘れたからな。
「はぁ、もういいわ。それを片付けて適当に待ってて。期待した私が馬鹿だったわ。本当に蓮は私がいないとダメなんだから。」
「・・・・・・」
そう言って、エプロンを付け、なにやら嬉しそうに作り始めた。蓮は彼女がわざわざ、このことを言うためだけにさっきの茶番をしたとは思ってもいないだろう。その証拠に
(俺ってそんなにダメか?むしろ苦手なことの方が少ないと思うが...)
なんとも的外れの事を考えていたのであった。
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朝ご飯を食べ終わり、俺と凜は、近くの大きなデパートに向かっていた。
「なぁ、わざわざ歩いて行かなくてもいいだろ。バスで行けばすぐに着くんだし。」
「別にいいでしょ。お金だって無限にあるわけじゃないんだし。それに、早くても安全に着かなきゃ意味ないじゃない。」
「お前はバスを何だと思っているんだ?」
凜の中でのイメージはどうなっているんだ?事故なんてそんなしょっちゅう起こるものでもないだろ。ましてや、公共交通機関がそんなんだったら完全に無法地帯だろ。
「そんなことどうだっていいでしょ。早く行かないと日が暮れるわよ。」
「だから、バスを使えばいいだろ。」
「いいから早く。」
そして、凜は上機嫌そうに、蓮はまだ納得いかない表情をしながらも、ちゃんと彼女に付いて行くのだった。その様子は周りから見れば、とても微笑ましいものだった。
そうして、他愛もない会話をしているうちにデパートに着いたのであった。
「まず、何から買う?そもそも何が必要なんだ?」
「そうね。たくさんあるけどまずは化粧品とか私用のシャンプー、それにトリートメントかしら。」
「わかった。じゃ、行くか。」
そう言って、俺が行こうとすると凜は何か気付いたらしく、俺を呼び止めた。
「あっ!待ってちょうだい!それらは荷物になるから最後にしましょう。」
そう言われてみれば確かにそうだ。昼もここで摂るつもりだしそういう荷物があると気分が悪いし、面倒くさそうだ。
「そうだな。なら、結局何から買うんだ?」
「だったら、せっかくここにも来たことだしいろんなところを回りましょ。」
「おい、たくさんあるんじゃなかったのか?時間無くなるぞ。」
「そうだったかしら?まぁいいじゃない。それとも私と回るのは嫌なのかしら?」
そう言って、上目遣いで見つめてくる。こいつ、分かっててやってるな。周りからの目もあるし、ここで断ったら俺がクソ野郎みたいじゃないか。
「いや、そういうわけではないが...」
「そう、なら行きましょ。」
「・・・・・・」
そうしてまんまと口車に乗せられた蓮であった。
そんな訳で今、凜が「服を見たい」と言ったので、洋服屋にいる俺だが、彼女が気に入った服を試着しては俺に感想を求めてくる。別に自分のものなんだから勝手にすればいいだろ、っていうのが俺の本音である。
「これは、どうかしら?」
「良いんじゃないか。」
そう言った会話がさっきから何回も続いている。そんな俺の様子に痺れを切らしたのか凜が少し怒った表情をした。
「私は別にいいけど、そんな態度だといつまで経っても終わらないわよ。」
「!!?」
なん、だと!?ずっとやってて飽きないのか!?流石にそれはまずい。これは真面目に考えた方がよさそうだ。じゃないと俺がもたない!そう思って、凜をよく見てみた。なるほど。少し派手な感じの恰好か、似合っていないわけではないが、彼女のイメージとはあまり合わないな。
「理由はともあれ、やっとちゃんと見てくれたわね。で、どうかしら?」
「そうだな。似合ってないってわけじゃないが、俺からしたら少し違和感があるな。俺的には普段の落ち着いた雰囲気の感じの方が好きだな。」
俺がそう言うと、凜はなぜか少し顔を赤くした。
「そ、そう?ならこれはやめとくわ。だったらこっちのこういうものの方がいのかしら?」
「そうだな。そっちの方が絶対に似合う気がする。」
「そう...ありがと。参考になったわ...とりあえずこれは買ってくるわね。」
そう言って、少し急ぎ気味でレジの方へ向かって行った。何の参考になったんだ?それに急にしおらしくなったりして。強気だったり忙しいな。
そこでトイレに行きたくなったので、凜にメールだけ送り、行くことにした。
『トイレ行ってくる』
『わかったわ』
トイレは意外と遠いところにあった。もう少しトイレの場所が増えれば完璧だな、などとくだらない思考は外へ追いやり、俺は用を済ませたので、どこにいるか凜に聞いた。
『おわった。どこおる?』
『真ん中にある休憩スペースみたいなところ』
分かりやすいように写真付きで送られてきた。こういうところは気が利くな。などと思いながら、凜がいるはずのところに着くと、何やら揉め事が起こっていた。そこには明らかにチャラそうな雰囲気の男二人と、不愉快そうな顔をしている凜がいた。凜が俺に気付くと「早く来い!」といった感じの視線を送ってきた。
「ねぇねぇ、いいじゃんかよ。一人なんでしょ?俺らとお茶しようよ。」
「そうそう、少し話すだけじゃん。」
「一人じゃありませんし、あなた方と話すことなんてありません。どこか行ってください。」
凜がそう言うと、男二人が怒った様子を見せ、凜に襲い掛かった。
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