6.わたしを照らす光
美月視点はこれで最後になります。
わたしはとても驚いた。しかし、バレるわけにもいかないのでここはとぼけてやり過ごすことにした。
「配信?それって、『watch』のこと?ううん。やってないよ。」
なんで高木くんがそのことを知ってるの!?誰にも話したこと無いのに?どこかでボロをだした?いや、そんなことはないはず、そもそも、彼とちゃんと話したことなんて、今日が初めてなのに。なら、どうして?
たくさんの疑問が溢れてきて、頭を必死に働かせていると、彼はわたしの返事なんであれ、関係ないかのように語りだした。
「そうか。なら、Vtuberの七雨 レイって知ってるか?彼女は俺の推しなんだ。その推しと声が似ている気がしてな。これでも彼女が同接10人くらいだったときから見てきたからそこらのファンよりも彼女の声を結構聴いている方なんだ。配信がある日は必ず10分前には待機してたし、配信がない日でもアーカイブを見返したりして、その度に癒しをもらっている。特に朝の雑談配信が好きで彼女のおかげ平日でも休日でも関係なく、早起きができるようになった。炎上したときは悲しかったな。同志たちは少し離れていったがそれでも応援していた。ほんとに彼女と出会ってから、必ずいい事ばかりではないが、かなり前向き?になれた。彼女には心から感謝しているよ。ありがとう。」
確信してそう話した彼に、わたしは胸が高鳴っていくのを感じた。それと同時にこれはいけない感情だと思い、抑え込んで心が苦しくなった。そして、わたしは何とかして言葉を作り出し喋った。
「そ、そうなんだ。し、七雨レイさん?だっけ?なんでわたしにありがとうって言ったのかは分からないけど、その人のおかげで高木くんにもいい変化があったんだ。それは良かったね!そう言ってもらえるだけで、本人もうれしいんじゃないかな。」
しかし、あくまでもしらを切ろうとするわたしに、彼はあの時と同じ、優しい目をし、わたしを真っ直ぐ見て、さっきよりも直接的な言葉でこう言った。
「篠原さん、俺は人の秘密を誰かに安易に話したりしない。俺が篠原さんから元気をもらっているように俺も篠原さんを元気づけたいし、話を聞きたい。篠原さん、俺を見てからどこか暗い気持ちを隠してるんじゃない?俺から実際に話を聞いてからそれも増した。違う?」
わたしはその言葉が引き金になって、今まで溜めこんでいたものが心の底から洪水のように溢れだし、泣きながら言葉を紡いだ。
「わ、わたし、あの時、自分のイベントがあって、電車に乗ったの。そしたら後ろから、急に、誰かに触られて、ほんとに怖くって、何もできなかったの。でも、高木くんと目が合って、その目が優しくて、わたしを助けてくれるって、わかって、とてもうれしかったの。」
「でも、わたしが自分から声を上げたら、あんなことにならなくって、高木くんがひどいことを言われることもなくって。これが全部、わ、わたしのせいだって思うと、一番つらいのは高木君のはずだって分かってるんだけど、ほんとうに苦しかった!」
一通り言い終えると、わたしの心は少し軽くなった。
ここまで誰かに本音を話したは両親を除いて彼が初めてだった。彼といると安心する。そんな不思議な感覚に包まれ、わたしの暗かった心を明るく照らした。
「そうか、話してくれてありがとう。篠原さん。そして、ごめん。俺は自分が思っていたより、事態を軽く受け止めていた。だが、それが篠原さんをこんなにも追い込んでいたとは知らなかった。本当にすまなかった。」
わたしは一瞬、ポカンとしてしまった。彼に全く責はないのにもう一度謝ってきた。
あぁ、なんでこんなにも彼は優しいのだろうか。普通なら、わたしの事を責めるのが当たり前なんだろうが、彼は自分にだけ非があるとばかりに謝罪をしてくる。どうしてあれだけのことをされ、ここまで真っ直ぐでいられるのかがわたしには分からなかった。
「俺は、そんなんじゃない。確かに、あのことに関しては俺は全く悪くないと思っている。だが、そこから起こったことに関してはもう少しやりようはあったのではないかと思った。だから謝った。」
やっぱり、わたしに気を遣わせない言い方。彼はどこまでもわたしは悪くないと否定してくる。そんな彼に、わたしは誠意を見せないといけないと思い、覚悟を決めた。
「改めて、わたしはVtuber、七雨 レイをやっている篠原 美月といいます。これからよろしくね。高木くん。」
そう言って、わたしは彼に満面の笑みを向けた。
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それから、挨拶だけして帰ろうとしたので、わたしは慌てて引き留めた。まだ彼と一緒にいたい。たくさん話したいと思った。自分から誰かを求めるのは初めてでとても緊張した。
「どうやってわたしのことを知ったの?」
「たまたま、かわいいと思ったビジュアルに目が留まって、気になって見てみたらそれが篠原さんだっただけだ。でも声もかわいくて、トーク力もあって面白かったから好きになった。今では、ただのいちファンだ。」
わぁー!、わたし、可愛いって言われちゃった。それに好きって...そういえば、同接が10人のころから見てるって言ってたっけ。恥ずかしいけど、昔から見てくれていたってのは正直めちゃくちゃ嬉しいな!
どこか勘違いしている部分もあるが彼女はとても嬉しそうだ。それくらい舞い上がっていた。
その後もたくさん話をし、最後に連絡先を交換して彼は隣の部屋へ帰っていった。
「もっと話したかったなぁ...」
彼が帰った後、そうつぶやいた。彼ともっと話したい。声を聴きたい。彼の事をたくさん知りたい。そう思ったとき、わたしは自分のこの気持ちが何なのか自覚してしまった。
「もしかして、わたし、高木くんの事好きになっちゃった?」
口に出してしまった瞬間、顔が急速に赤くなっていくのを感じた。好き。好き。彼が好き。そう思うと止まらなくなった。
どうしよ...わたし、明日からどんな顔をして高木くんと話したらいいの?変なこと言ったりしないかな...そもそも誰かを好きになったのなんて初めてだしどうしたらいいのか分からないよ。
そして、ひと悶着あったあと、ようやく落ち着きを取り戻し、冷静になった。
「今思えば、変な人だよね。」
そう、話してみて、とても優しいとは思ったものの。あの時の彼の行動は変だ。冤罪なのにも関わらず、そのことを強く否定しない。淡々と言っているだけで、そこに感情的になった様子は微塵も見られなかった。それも普通なら必死になる場面でだ。
会話が自然すぎて、話しているときは気付かなかったが、学校でよく見る彼の様子と全然違った。会話は普通にできるし、弱った様子は一切見られなかった。それどころかわたしの胸の内を聞く余裕すらあった。
なら、どうして彼は学校であんな事をしているの?それをなんで受け入れているの?明らかに普通じゃない。必ずああなった原因がある。そう思い、不躾だが彼の過去を知りたいと思った。わたしがあの時、心が壊れた頃と似た経験があるはず、と勝手に推測した。
そんな、彼のことを知るためにまずは彼の冤罪を晴らさないといけない。じゃないと、信用してもらえないし、そこから先の事なんて話してくれるわけがない。
「ましてや、そんな状態でわたしを好きになってくれることなんかないしね。よーし!そうと決まれば、明日にでも動かないと!手遅れになっちゃう!」
わたしは自分を奮い立たせ、トラウマと向き合いながら、彼の冤罪を晴らすため、これはどうか?あれはどうか?と長い間、思考を巡らせた。
あくまで、美月から見た蓮の性格であって、間違ってはないけど、蓮を変えたのは、炎上事件の一回だけです。蓮には元々、そういう性格になる素質があっただけです。
なので、路線変更がない限りは蓮の過去の話はありません。今のところその予定はないので安心?してください。
あと、最近のPV数(アクセス数)が多くて正直怖いです。(ありがとうございます!)
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