5.似ている彼
引き続き美月視点です。
彼はすぐに周りの人に取り押さえられた。だというのに焦った様子もなく、淡々と「やっていない。」と主張するだけだった。もちろん彼はやっていないのでそう主張するのは当たり前の事なんだが、そこはもっと強く言うべきところだろうと思った。
「大丈夫?怖かったでしょ?でももう安心して」
「待って!彼はしていない!」
わたしはもちろん否定した。むしろわたしからしてみれば、わたしを救ってくれるヒーローだ。そんな人を疑わないでほしいと強く思った。
「そんなはずないでしょ。私はあの男が近くにいたのを見ていたんだから。
「それは、わたしを助けようと...」
そこで言葉を切られ、
「あなたは被害者なんだから変に遣わなくていいのよ。」
この後も同じようなことを何度か言ったが、結局わたしの言い分は全く通らなかった。被害者本人がそう言ってるのになんで聞いてくれないんだよ!ちゃんと最後まで話聞いてよ!
そうして、日にちだけが過ぎていき、学校が始まった。
ガヤガヤ...ザワザワ...
何だろう?
学校に着くとないやら騒がしかった。わたしは何事かと思い、すぐに友達に話しかけた。
「おはよう!この騒ぎは何?何があったの?」
「おはよー。それがね、高木ってやつがヤバいことしたらしいよ。」
そのヤバい事ってのを聞きたいんだよ!それに、高木って誰?そう思いながらも、急かさないように努め、続きを促した。
「ヤバい事って?」
「なんでも、痴漢らしいよ!痴漢!最低だよね!だから、美月も近づかないほうがいいよ。襲われるかもよ。ほら!ちょうどあそこにいるあいつ!」
その話に内心、ドキリとした。いやいや、まさかそんなことあるはずないだろう。たまたま同じことがあっただけ。でもタイミングが良すぎるし...そう思い、友達の言う高木という男子を見てみた。
「!?」
わたしは彼を見た瞬間、雷に打たれたような感覚に陥った。あの時と同じ顔をした彼がいた。
なんで彼が!?いや、同じ年頃だろうとは思っていても、まさか同じ学校だったなんて、思いもよらなかった。わたしは助けようとしてくれてうれしかったこと、彼と話したいことなど、たくさんあって彼に声をかけようかと思った。しかしその直前で足が止まった。
彼の冤罪が晴らせなかったこと、そのことで、責められるんじゃないのか?そもそも関わることすら彼にとっては迷惑なんじゃないか?そう思い、あと一歩のところで勇気が出なかった。
その日から彼はいじめられるようになった。
「死ね!痴漢野郎!」
「クズ!女の敵!」
たくさんの悪口や陰口を言われ、その中には暴力など過激なものまであった。彼は最初こそ耐えており「やっていない」と言い返していたがみんなはそれを聞かなかった。さすがにやりすぎだと思ったが、自分が原因でもある以上わたしもあまり強く言えなかった。
そうして、数ヶ月経った頃には彼は憔悴しきっており、言い返すことも無くなった。その間、何度も早く彼の冤罪を晴らさないと、と思ったが、その度にあの日の恐怖がよみがえり行動することができなかった。
わたしのせいでこんなことに...あの時自分が声を上げていれば、もっと強く否定していれば、電車に乗らなかったら、そもそもイベントなんて無ければ...なんで?なんで?なんでわたしばっかりこんな目に合わなくちゃいけないの?嫌だ!苦しいよ...
誰か、助けて...
ーーーーーーーーーーーー
わたしが家の扉を開けようと鍵を探していたところ、不意に声をかけられた。その声はとても穏やかで、どこかで聞いたことのある声だった。
「こんばんは。新しく隣に住む事になった高木蓮と申します。これからよろしくお願いします。」
「!?」
声の持ち主はあの高木くんだった。なんでこんなところに!?そう思いながらも、動揺を隠し、あの時のお礼と謝罪を言おうと思った。
「あ、あなたはこの前の...」
「え?俺たちどこかでお会いしましたか?」
「ほ、ほらこの前の。覚えてない?」
わたしがそう言うと、ポカンとした顔をし、まるで本当に知らないとばかりに、強く否定した。
「知らないな。とういうか誰なんだ?俺が挨拶したのにそれを返さないのは失礼じゃないか?」
そ、そんなに強く否定しなくても...もう少し言い方を考えてほしかった。でも、確かにそうかあの時は顔を隠していたし、分からなくても無理はない。それに彼の言う通り、せっかく挨拶してくれたのにそれを返さないのは、相手からすると失礼に当たる。
「ご、ごめんなさい。わたしは篠原 美月って言います。よろしくお願いします。ていうか同じ学校の高木くんだよね。これでも学校では有名なんだけどね。知られていなかったんだ...悲しい...はっ!?そうじゃなくて!この前、電車でわたしを助けようとしてくれたよね!」
わたしは、後ろめたい気持ちを悟らせないよう、なるべく明るい声で返事をした。でも、何か変。彼の様子がいつもと違う。なんか吹っ切れたような、諦めたような、そんな様子。
「あぁ、あの時はすぐに助けられなくてごめん。責めているわけではないが、もうちょっと早かったら俺もここまで酷い噂をされることもなかったしな。」
その言葉にわたしは胸がチクりとした。
「ううん、そんなことない。助けようとしてくれたことは分かってたから。こっちこそ迷惑かけてごめん。わたしのせいでこんなことになって分かっるけどほんとにごめんなさい。」
あろうことか、彼はわたしに謝ってきた。本来なら私の方が先に謝らないといけない立場なのに。しかし、そンな思いとは裏腹にわたしの心は、彼がやっぱりわたしを助けてくれようとしたことが嬉しくて、とてもドキドキしていた。
もっと彼と話したい。もっと一緒にいたい。でもわたしにはその資格がない...そんなことを思いながら、ふと、彼が何故ここにいるのか尋ねてみた。すると、どうやら、家族に追い出されたそうだ。その時言われた罵詈雑言や物言いを詳しく教えてくれた。
わたしはそれを聞いたとき、怒りや悲しみなど、たくさんの感情が溢れてきた。それ以前に、なんで本来味方であるべきの家族が彼の言うことを信じてあげられないのか、理解ができなかった。わたしがそう言うと彼は
「いいんだよ篠原さん。俺は気にしていないから。」
本当に気にしていないようだった。その様子はあの頃、わたしが壊れていたときとよく似ていた。だから、見ていてとても悲しかった。
「高木くん、冗談でも自分でそんなことない言っちゃだめだよ。それは強がりじゃなくて、自分を卑下していることやわたしから見た高木くんを否定しているのと同じだよ。だから、そんなこと言わないで...」
最後の方は声が小さくなり、泣いてしまった。そんな私の様子に彼はいたたまれなくなったのか
「とりあえず場所を変えて話をしよう。」
と言った。そしてなんやかんやあって、わたしの家で話すことになり、しばらくして落ち着きを取り戻したわたしと彼との間には何とも気まずい空気が流れていた。
うぅ...恥ずかしい...いくら彼からひどい話を聞かされたとはいえ、泣き顔を見られたのは恥ずかしい...どうしよう、何て言えばいいのかわからない。なにか、何かない?
などと考えていると、沈黙を破って、彼が口を開いた。
「勘違いだったら流してくれていいんだけどさ...」
「何かな?」
わたしは、平静を装って彼の言葉に耳を傾けた。
「篠原さんってさ、配信とかやってたりする?」
日間現実世界〔恋愛〕ランキング24位、週間現実世界〔恋愛〕ランキング47位
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