初めての修業 焦らずノンビリいこうよ
前回のロリ滅は
元赤、ご不満を表明
色々考えた割にはあんまりうまくないけど何とかやり込めた
ちょいとさ、空気重いんだけどどうしてくれるん?
以上れす。
最初に皆が席に並んだ時のワクワクしたような空気は完全に飛んでしまって、微妙な空気の中、元赤が言葉少なに謝罪を口にして、周囲がそれを受け入れてから漸く、初めての授業、というか修業が始まった。
「んでさ、昨日から楽しみで夜眠れなかったんだ。目の前に積まれているモンも何に使うのかよくわからねぇし、使った事もねぇ。」
「あれだろ?ギルドのお偉いさん達が偶に、このぺらぺらな物にごちゃごちゃやって文字を書くんだろ?
俺達の中で文字書ける奴って何人かしか居ねぇと思うけど、お師匠さまが教えてくれるとかか?」
流石に塒組でリーダーを何年か続けてきただけあってか、ケリーが空気を読んで場を軽くする為に軽口をたたいて、お陰で皆の意識が私の授業に向いてくれた。合いの手を入れてくれたのはイリエ兄ちゃんだ。
二人は中々良いコンビになるかもね。
「これは、アレよ。羊皮紙って言うのと紙だね。あとペンとインクもある。結構お高いもんなんだよ?羊皮紙一枚で銅貨20枚以上はすると思う。
私は冒険者の暮らしだったから文字が読めなくても何とかなるし、字を書くって事も滅多に無いから使った事無いけどさ。
流石に魔法使いになろうってんなら、文字位読めなきゃどうにもならないんじゃない?」
応じてアリヤさんが羊皮紙の大体の値段を告げて自分も文字がかけない事をカミングアウトする。この面子で読み書きできるのは元赤くらいなのかな。
因みにうちのシリルは読みは出来るけど、書くのは自分の名前と簡単な文字しか書けない。実家のお手伝いの合間に私が少しづつ教えたのだ。
個体はこの手の知識はロハで分霊からもらっているから、普通に読み書きできる。
「羊皮紙と紙の値段に驚くのはいったんやめて、落ち着いて。
今目の前にある紙と筆記用具は直ぐには使わないから。この作業部屋に一人一人、道具入れを用意しておいたから後でそこにしまっておいてね。」
一人一人の名前が記入されている木造りのロッカーを指示して、皆の視線を誘導してから再度私に注目させる。
「直ぐ使わないものをあえてみんなに先に渡したのは、弟子入りした事を実感してもらう為だよ。
あんた達一人を弟子に取って仕込むってだけで最低でもどれだけのお金がかかるのか。手間も時間も、色々な物がかかる。
教える方も教わる方も生半可な覚悟でいられちゃ困るって事、理解してもらいたくてね。」
元より、魔法使いになれるという事。弟子入りするという事。それらがどれほどの大事であるのか、少なくとも彼らの中で理解が及ばないものはいない様で、途端にみんなの表情が引き締まった。
当然だよね。希少な魔法使いどころか、職人さんの弟子になる事すら、伝手の無い彼らにとっては夢のような話なんだから。
才能もあり、環境も揃っていてなお、槍の呪いのせいで魔法使いを諦めざるを得なかった元赤の表情も引き締まっている。ただ、どこか苦笑の残り香が顔に残っているように感じた。もう腹の中にも怒りは無い様で少し安心した。
良いように皆の覚悟が出来てきたのを感じて早速修行に移る。
魔法の修業と言っても、まずは座学をする前に自分の中にある魔力を感じる事が出来なくては話にならない。この辺は、この世界の常識からは少し離れてしまうけど、この手のライトノベルにありがちな手順を順当に踏んでいく事になる。
先ずは自分の魔力を感じ取る事。そしてその魔力に僅かでも良いから干渉できるようになる事。それが出来るようになってから、後は座学を交えつつ魔力のコントロールを学んでいく事になる。
そして、ここがある程度成長してしまった者にとっての一番の鬼門になる。幼いうちなら、この自分の魔力を感知するという事が感覚的に何となくできる様になるのだけれども、ある程度成長してしまうと自分の中にある力、という物に慣れ過ぎてしまって感じ取る事が出来なくなってしまう。
アリヤさんは、その点でちょっと、いや、かなりこの最初の一歩で苦労する事になるだろう。
「ん-、目をつぶって深呼吸しながら心の中をー。」「うるせぇよシリル。もうちょい静かにやれ。」「朝が早かったからなんかこのまま寝ちまいそう。」「何にも感じなかったらどうしよう。せっかく教えてくれるエリーになんて言ったら。」「落ち込む前に頑張ってみた方が良いですよ。」「心配すんなロナ、師匠が簡単に見捨てたりはしねぇよ。俺達を拾うくらいなんだからな。」「うーん、何にも感じないんだけど。本当に私にも魔力があるのかな。」「解るぞ。私にも体の奥に何かがあるのを感じる。」
元赤が私の仕込んだとおりに赤い人テイストで何かを感じ取ってしまったようだ。困ったものである。思わずニマニマしながら元赤を見てしまって、シリルと目が合ってしまった。
いや、本当に私は元赤と何も無いから安心してよ、シリル。怖い顔して睨まんといて。
このファーストステップ、本当に厳しいのはアリヤさんじゃない。彼女よりは若いけど、自分の中に魔力とは別の力を感じ取り、それを使って戦う事になれてしまっている元赤が一番厳しいんだよね。
下手に魔力以外の力を感じ取る事に慣れてしまっているせいで、この最初の一歩で確実に躓くだろう人物ナンバーワンが元赤だったりするんだよ。
因みにこの世界での標準的な魔法使いの修業は、座学を中心に始まって、この世界での知識で彼らなりに解釈した「魔力とは何か」を学びながら、自分の中の魔力を感じ取れるようになっていく事を目指す。
通常はこのプロセスで大体数年を要する、やはり最初の難関の一つという事みたい。早い人でも数か月から2年位かかるし、遅い人だと4~6年もここで躓く。
私はここでそこまで時間をかけるつもりは無い。自身の魔力感知のプロセスを大体1か月で修了する予定だけど、なぜここまで差が出るかの答えは多分、この世界で教えている座学に原因がある様な気がするんだよね。
仕入れた知識の中には、師匠を持たない才能の有る子供たちは魔力の存在を教えられ、感じ取るように言われるだけで、短期間で自然と魔力の感知が出来てしまう。師匠を持つ者達の様に手間取らずに短期間で習得してしまうパターンが多い、という知識が嫌味の様に附則知識として追加されていたから。
学ぶことによって、修行の足を引っ張る知識って学ぶ意味があるのかはなはだ疑問だけど、それは置いておきましょうか。
まぁ、大丈夫だよ。躓く予定のアリヤさんと元赤にはちゃんと後で救済措置を取るから、心配しないで欲しい。
それで、座学と実技を経て自身の魔力を感知できるようになってから、ようやく魔法、魔術の術式を頭に叩き込まれる。感じ取れるようになった魔力を術式に沿って動かして魔力を展開し魔法の発動までのプロセスを学んでいく。
最初から、魔法を発動させることのできる魔力を持っていると言うのが前提になっているから、魔力を増加させるためのトレーニングという観点が抜けている。それに魔力のコントロールに関しても、一切記述がないのも問題だよね。
コントロールについては、魔法の詠唱で強引に術式に魔力を流す事で、省いてしまっているのかもしれない。
魔法一回当たりのコストが異常に高いのはこの辺りが関係しているのかもしれない。いや、元の術式もかなり無駄が多いのも事実だけど、この無駄だって、どうも事情がありそうなんだよね。
ここまで調べてみて、なんとなくこの無駄を省く事がこの世界の魔法使いにとって正しい事なのか、微妙に感じ始めている。経験則で必要だからこそ、この無駄が生まれたと考えることも出来なくないかな。
魔力のコントロールをきちんと学ばないまま強引に魔法を使う為に、魔術式に無駄な部分が必要だったって考えると、この世界の魔法の発展の歴史が何となく分かってくる。
ま、それでも私の魔術式を世に広める気はないのだけれど。
私の想像通りだとすると術式を広めたとたん、世界中の彼方此方で魔法の暴走事故が頻発しそうで怖い。
兎も角、今の時点でこの世界の常識とは違う知識を座学で教える訳にはいかないから、私の場合はいきなり魔力の感知から始める事にする。その方が多分、余計な知識が邪魔しなくていいかもしれないし。
うん、色々とこの世界の常識を頭に入れてしまってから魔力の感知の訓練に入ると、大きく回り道をしてしまうから余計な事は今は教えない。
この世界の常識は、感知・コントロールが出来るようになってから教えればいいよね。自分で何か疑問に感じたら、そこからは自学で賄ってもらおう。
ところで、私の方式とこの世界の方式、どっちの方式でもアリヤさんと元赤が自分の中の魔力を感知できるようになるのは難しい。
シリルや兄ちゃん達は、長い間個体と一緒に居た事が影響しているのか、外から見ていてもいい感じに自分の中を探れているようね。この調子ならそれほどかからないで、第一段階を突破できそう。
ロナやケリー達は、ある程度育ってしまっているせいか少々苦戦しているようで、この最初の一歩を突破できるのは、ちょいちょいアドバイスをしつつ毎日自己練習を繰り返しても、3~4週間はかかりそうな感覚ね。
もう少ししたら、コツを教えるふりをして少し干渉してあげた方が良いかも。
アリヤさんは自分の中を探ると言われて簡単にやり方を教えてから暫く、単に目をつぶっているだけになってしまっているし、元赤に至っては案の定、自分の中に眠る力の塊に気が付きはしたものの、それは魔力じゃないよって教える羽目になっている。
元赤が体の奥底に眠らせていて、今気が付いたその力は、オーラとか気とか呼ばれる類の、主に生命力に根差した力の類なので。
残念ながらそれを魔法の発動に利用する事は出来ない。この世界の法則では、だけど。
「そうか、違うのか……。ふっ、未熟ゆえの過ちというモノは幾つになっても認めがたいものだな。」
それを伝えるとがっくりと肩を落とす元赤。自然と慰める位置をキープしているシリル。この狼ロリめ、油断できん。それと元赤の赤い人テイストが今回色々と磨きがかかっていて私的には大満足だ。
ちょっと微妙に違うけどね、またそこが良いのよ。
ま、元赤もアリヤさんも暫くは自力で頑張ってもらう予定なのだから、私に焦りはない。前にも言ったけど、この最初の一歩は私が干渉してあげれば、意外と簡単に突破できるんだよね。だから、焦る必要は無い。
もう少ししてケリー達が最初の試練を突破できた辺りで、ボチボチ手を貸していく予定だから。
皆が思い思いに目をつぶったり座り込んだりして瞑想しているのを横目に、私は少し大きめの端切れを用意して、裁縫仕事の練習を再開する。皆が目をつぶってうんうん唸っている所をただ見ているだけでは私も暇だしね。
既にある程度の基本の動作は問題なく出来るようになっている。もう少し手慣らしをしたら、前から用意していた刺繍枠をつかって幾つか刺繍をする予定なのだ。
既に図案はいくつか用意しているし、色とりどりの糸も沢山揃えている。
この刺繍がある程度できるようになったら、まず私が普段から使っているローブに手を加えて魔術式を書き込んでマジックアイテム化する予定なんだよね。
認識を軽く阻害する術式と、防御関係の術式を幾つか。いきなりではあるけど、この世界では初めての方式でのマジックアイテムの作成方法にチャレンジする。
この世界のマジックアイテム作成法に関してはあんまり詳しくないから、その辺はおいおい合わせていくつもりだけど、私が使う分のマジックアイテムに関しては、別に構わないでしょう?
うっかりしたら、私の装備から色々と魔術式の情報が漏れてしまう可能性もあるから、扱いには慎重になる必要があるけど。
うん、その内この世界基準のマジックアイテム作成を学ぶ必要があるかな。職人さんとして、世に出せない物を作るのは寂しいからね。
うずうずしてきた私はいったん裁縫の練習を切り上げて、刺繍用に以前描いた図案を頭に思い浮かべながら、再度デザインを書き込む。流石に皆の前でノートやボールペンを使う訳にいかないから、私用にも羊皮紙は用意してある。
久しぶりの羽ペンを手に、一、二度ペンを引っかけてしまいながらもカリカリと大体の図案を書き出して、その場で思い付きでアレンジを加えてみる。
ある程度複雑な図案の方が、術式を刺す時の練習になるから、難易度高めのデザインを目指してカリカリと。
ザジとロナがお互いコツを教え合ったり、元赤が何度か、これか!?そこか!?ってやってその後自分で間違いに気が付いて落ち込んだり、多分、周りが協力してくれたんだと思うけど、うまい具合に元赤の隣をキープしたシリルが、彼をフォローしたりしているのを聞き流して、幾つか満足いくデザインを羊皮紙に書き込んでいって、1日が過ぎて行った。
修行の方は順調な滑り出し、とはいかなかったけど、私のデザインの方はそこそこ満足いくものが描けたよ。
読んでくださり、ありがとうございました。
評価や感想をくださると私が喜びます。
いいね!を押してくれても嬉しいです!
さて、この時点で奇麗にストックを使い切りました。
土曜日の時点で100~102話まで書けていない場合、暫くお休みするか、書けている分だけ投稿するかのどっちかになります。
来週の火曜日に投稿されているかどうかは……。
8月20日、10:29 追記 現時点で104話の途中まで書けました。来週は大丈夫みたいです。




