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思わぬ連戦 でも苦戦ではないよ

さて、前回のロリ滅は(キビキビ


ダンジョンの中にスラム街発見

ダンジョンの中でパップス発見

ダンジョンの中で敵を発見


なんかさ、ダンジョンの中でパップスが増殖していそうで怖いね。

 戦闘開始からわずか20分。私達は意外な連戦とちょっとした乱戦の最中に居た。とは言っても、苦戦と言う苦戦を演じている訳ではない。



 「次、正面から3つ。こっちは私がやるから、ジルは左からの2つを宜しく。」



 元赤と4文字で呼ぶよりもジルの方が呼びやすい。その程度には切羽詰まっている今の状況に苦笑を覚える。



 「了解だ。が、たまには私の方にも蟻を回して欲しいのだが。」



 「左の2つのあとに、蟻さんが3つ来るから、それで我慢して。」



 「えぇぃ、次から次へと。」



 えぇ……自分で蟻さん欲しいって言ったじゃないってそういう意味ではないか。忙しくて突っ込む暇がないなぁ。



 間が悪かったのか、運が悪かったのか。ゴブリン達に急襲を仕掛けた直ぐ後、彼らの叫び声に惹かれてコボルドの一団が此方に駆け付けたのが最初の切っ掛け。彼らは彼等で蟻たちと敵対関係にあるらしく、此方に駆け付ける途中で何匹かの蟻を引き連れてきた。



 それを皮切りに何故か連鎖的に、次から次へと蟻やらゴブリンやらコボルドやら。音に釣られてと言うのとはちょっと違うかもしれない。本当に運悪く連鎖したって感じだね。


 更にはこの浅層では珍しいらしい、蟻のアンデッドまで湧いてくる始末。


 虫のアンデッドって、少し斬新かも。ここしばらく、少なくとも数千年単位で分霊わたしは見た記憶がない。そも巨大な虫型のモンスターに出会う事が最近じゃあんまりなかったけど。




 とは言え、一度に沸いて迫ってくるわけじゃない上に、此方の処理速度も速い。結果的に、モンスター勢力の戦力の逐次投入という事態に収まっている為、苦戦をしているという程でもない。


 ただ息を抜く暇がない。



 幸いにも、魔力の回復ポイントはそこら中に出来上がっている。この場は多少無駄に魔力を消費してでもさっくりと片付けてしまった方が良い。レベルもさっき上がったから、術のコントロールにも余裕がある。


 さっき「魔法の矢(マジックミサイル)」を使った時、下水路で使うのとは違って、閉鎖された空間ではあるものの、空間自体が広大な為かそれとも壁や床が多少の音を吸収するようにできているのか、それほど音は響かなかったから問題は……ない。



 「魔法の矢(マジックミサイル)



 ワントリガーで一度に3回分のマジックアローを唱える。術をアレンジしたもので、レベルが上がった影響か、一回分辺り8発の光弾が三回分。合計24発の光弾が戦場を駆け巡り、蟻の節々、まだ遠方に居るゴブリン達の急所をめがけて叩きつけられる。


 魔法発動と同時に身近に迫ってきていたコボルドをショートソードで始末する。急所に一撃。



 今の私の膂力なら、それほど体重差のない相手ならば簡単に両断できる。武器が爪と牙だけのコボルドに私の剣を伏せく手立てなどない。スティレットの時と違って切りつける事が出来るから、攻撃が単純にならなくて戦いやすいわね。刀身が肉厚でスティレットと比べれば頑丈だから突く、切る、防ぐ、はらう、等々色々手が打てるからね。



 敵の一団の懐に入り込んだ勢いそのままに、基礎戦闘技術パックに梱包されている初級レベルの剣術と人間離れした速度と膂力で彼らを蹂躙していく。うん、早くも武器を駄目にしそうだな。


 ちゃんと剣に気を込めているし、刃筋を立てて切ってはいるんだけど技術が追いついていないから、切られるコボルド達が私の剣戟の勢いに吹き飛ばされて、まぁ酷い事になっている。胴を横から薙ぎ払われて臓物をその辺りにまき散らしながら吹き飛んでいくコボちゃん、っとこの略し方は不味いか。


 私の周囲には、収束の甘い気に切り飛ばされて一部をミンチに変えた死体がゴロゴロ転がっている。



 ふと元赤の方を見ると、順調に奇麗な死体を生産している。彼の希望していた蟻に至っては、本来なら槍で相手をするのは少々難しい相手だと思うんだけど、素早く丁寧に関節の節の部分を破壊して動けなくしてからとどめを刺している。


 弟子に負けるのはちょっと悔しい。魔道具関連の取得が終わったら、戦闘関連の能力向上もある程度視野に入れておいた方が良いかな。


 それとも、一人でダンジョンに籠ってひたすら実戦で技術を磨き上げていくか。



 とりあえず、補助具と最低限の私の装備を作り上げてからかなぁ。来春から参加予定の下水組の装備も揃えてあげたいし、余裕があれば他の塒の子達にもボチボチ装備を回してあげたい。冬の間にやっておきたい事が意外と多くて、手が回らないや。


 んー……、はぁ、しかたないか。下水組用のグリーブブーツやグローブは性能さえ維持できていれば多少見た目が悪くても、粗製乱造になっても割り切って数を揃える事を最優先にした方が良いよね。


 全部魔法で作るのはあんまり好きじゃないんだけど、魔法の訓練だと思う事にしよう。



 戦闘中に思わず漏れた溜息にも元赤は敏感に気が付いたらしい。けど流石に反応する暇はないみたいでちらりと目線を寄こしてきただけだった。



 「気にしなさんな、こっちの事だから。」



 視線に答えつつ、ショートソードに乗せた気を斬撃に変えて、新たに迫りつつあった蟻の小集団に撃ち出す。込めた気が大きすぎたのと、やはり収束が甘いせいで切り飛ばされるというよりも着弾地点から粉砕されて吹き飛ぶ蟻たち。


 これじゃぁ突きの衝撃を飛ばすにしても乱戦じゃフレンドリーファイアが怖くて使えない。調子のいい口笛が元赤から聞こえてきた。


 未熟な技なりに、それでも見る所があったらしく、「今度それのやり方を教えて欲しいな。」と言いながら気を槍に纏わせて勢いよく振り、蟻を粉々に吹き飛ばして見せる。



 もうちょいコツを教えればさっき私が見せた程度の技でよければ、元赤なら直ぐにモノにしそうだね。



 「魔法の修業がある程度軌道に乗ってからね。」



 「耳に痛い事を言う。だが師には従うべきだな。」



 「その内私に槍の使い方を教えてよ。それでお相子って事にしようか。」



 「その程度じゃ恩を返す事にはならんが、了解した。先ずは身に合う槍を見つける所から始めるか。」



 呑気な会話の合間合間に化け物共の死体が積み上がり、ばら撒かれていく。何と言うか、相手が弱い事もあるんだろうけども、戦いやすいな、元赤と組むと。



 何となく元赤の呼吸が解るし、元赤が私に合わせてくれるのがまた絶妙でやりやすい。戦闘中の私の小さな溜息に気が付くほどだから、それほど私の様子を観察して私が何をやりたいのか察する能力が高いのだろう。


 新たに湧いてきたアンデッドアントの群れに突きの衝撃を打ち込んで、粉々に吹き飛ばす。その衝撃で一瞬動きが止まったタイミングに合わせて、先程の3発同時発動の「魔法の矢(マジックミサイル)」を打ち込む。



 アンデッドアントはこの浅層で発生したばかりなのか、それほど強敵では無かったのは唯一の救いだね。「魔法の矢(マジックミサイル)」2~3発で吹き飛んでそのまま動かなくなってくれた。



 この程度であれば、私と元赤が危機に陥ることは無い。単に切れ目なく連戦を強いられているだけで、苦戦してはいるけど苦戦、と言って良いのかな。


 ただ私は兎も角、疲労がたまると元赤が余計に槍の力を使う事になりかねない。そろそろ切り上げ時だと思うんだけど。




 暫く乱戦を戦い続けて漸く、釣られてくる奴らが切れた合間を狙って一度戦場を離脱する。元赤曰く、「これだけ食えれば暫くは十分だろう。」との事で、恐ろしく濃い時間を過ごしたけど、意外と短い時間で目的を達成できたのは重畳と言うべきか。



 「暫くってどのくらいなのよ。」



 「ダンジョンのモンスターは腹持ちがあんまり良くないらしくてな。一月と半分って所かな。」



 「て事は年明け早々、もうひと潜りする必要があるって事ね。あんたさえよければそん時もまた付き合うわよ。


 雪が解けたら外に出る必要もあるかもね。……修行にも丁度いいし、後で検討してみようかしら。」



 「シリル達を連れて魔の森に向かうつもりか?あんまり気が進まないのだが。」



 「もちろん、私も乗り気じゃないけど。身を守れるようにしてあげたいし。それまでにそれなりに魔法が使えるようになってたらって話だけどね。


 楽しみにしてなさいな。あんたも含めて、春までには最低限曲りなりに、だけど魔法が使える様にしてあげる。」



 そんな事を言うと方眉をピクリと動かして、少し表情を硬くする元赤。でも内心が手に取るようにわかる。気分を損ねたのではなくてその逆。一瞬年相応に喜んでしまいそうになる自分を押し殺そうとして、つい険しい表情になっただけ。


 何らかのマジックアイテムで防衛しない限り、強い感情を私から隠し通すことは出来ないよ、君。



 ま、当然知らないふりをする。



 「それは、とても信じられん話だな。如何に女神様とは言えそんな事が可能なのか。」



 「誰が女神か。ま、出来るかどうかは来年の春までにはわかるわよ。いいから捻くれずに楽しみにしてなさいな。


 さっきも言ったけどまがりなりに、だからちゃんとタネは用意するのよ。」



 「だとしたら、そのタネは簡単には表に出せない気がするのだが。」



 あぁ、それはそうだ。補助具を使えば、ある程度魔力を持つ者なら魔法が使える、という事になる。魔法使いの最低ラインが思いっきり下がるし、数も増えるか。混沌勢に漏れたら厄介な事になるわね。危なかった……。



 「そのタネは私が見出した特殊な才能を持つ人にしか使えないから、心配しなさんな。」



 そう言う事にしておこう。ちゃんと指定人物以外が使えないように、魂の波動にロックを合わせておく必要があるわね。作る前に気がつけて良かった。後は魔法を発動させる際に、この世界の通常の魔法発動に必要な魔力を消費しているように見せる、フェイクの機構も組み込んでおく必要があるか。


 あぁ、やる事が増えたよ。



 足早に戦場を離脱しながら、そんな事を話してた。



 帰りがけに、先程のパップスのジャネガ達にそこそこの獲物が出来立てほやほやな状態で放置されている事、モンスター共が異常に連鎖して迫ってきた事。一切の剥ぎ取りはしていないから、自己責任で獲物を漁るのであればこちらとしては文句はない旨伝えて、ダンジョンを後にした。



 ちゃんと忠告はしたから、この後彼らに何かあったとしても自己責任。助けてあげる理由は私にはない、とは言え以前ほどパップスから気持ち悪い雰囲気を感じなくなったし、少しだけ自分が薄情な気もしなくもない。



 ま、次の機会に生き残っていたら、その時は彼等を雇うのも考えてみてもいいかもしれない。次も同じタナトスに潜るかどうかは分からないけど。もしかしたら異常が出ているって噂のダンジョンの方に潜る事になるかもね。




 漸く外に出て、一息ついた私と元赤。かすり傷一つ負わず、返り血を浴びることも無かったけど、武器には体液やら血がついているし汗もかいた。



 「このまま帰る訳にも行くまい。何より血の匂いを子供達の所に持ち帰りたくはないな。」



 一応タナトスダンジョンの近くでこの時間からも湯屋がやっているらしいので、元赤の勧めに従って湯屋の近くの武器屋にショートソードを預けてメンテしてもらっている間に何気に今世初めてのお風呂をいただく事にした。



 お風呂。そうお風呂だよ。産まれて初めてのお風呂に内心テンションが駄々上がりな私。一応混浴では無い事を確認しておく私。抑えるべきところは抑えておかないとね。



 男に産まれたのなら混浴大歓迎ではあるけど、逆の立場に成るとやっぱり落ち着いて入りたいからさ。



 短時間で酷使されたショートソードを見て表情を強張らせる研屋さんに、時間内でやれるところまでで十分だからと半ば強引に前金と一緒に押し付けて風呂場に急いだ。

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毎月、月初は忙しくて後書きすら書く時間がありませぬ。

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