ダンジョン「タナトス」
前回のロリ滅は
ダンジョンに異変があるみたい
でも今から行くダンジョンには関係ないよ(フラグ?
初めてダンジョンゲート見たよ
さて、ダンジョンアタック開始!
いや、今日は軽く流すだけだよ?
ゲートを抜けた先は薄暗く、馬鹿みたいに広い通路だった。先は遠くまでは見通せず、緩やかな右カーブを描きながら下って行っているように見える。見渡せる先にはテントやら掘っ立て小屋やらが所狭しと建ち並んでいる。
これがダンジョンの一部だとしたら、随分と変わったダンジョンだよね。見渡せる限りだけで判断するとダンジョンと言うよりスラム街のような印象を受ける。
所々、広場が出来ていて、そこで何人かが火を焚き、食事の準備をしているようだ。そこかしこから色々な食べ物の匂いが立ち込めている。
外で衛兵さんが把握しているだけで7パーティー121名とか言っていたけど、一目見ただけでそれ以上の人がここに溢れているのが解る。
「ダンジョンが初めてなら、この光景にも驚いただろう?この表層では滅多に敵は出てこないから、今のうちに簡単に説明しておこう。」
滅多にって事は完全に気を抜くわけにはいかない訳だね。とりあえず100メートル規模で感知できるようにレーダーを設定しておく。範囲を狭める前、一瞬レーダーには1000人以上の中立者の反応があった。この人たちは一体何なのか。
人の群れの中を行くのだ。一応、接近警報は切っておく。
「表層?確か、今回用事があるのは浅層って言っていたけど。」
話しながら、テントや掘っ立て小屋をよけて作った様な幅10メートル位の通路を進んでいく。
「あぁ、ダンジョンには幾つかタイプがあってな。ゲートの先に外の世界と区別がつかない、空がある広大な空間が広がっていたり、建物の様に1階2階とわかりやすく区切りがあったりな。
このタナトスは、明確な区切りが無いタイプのダンジョンでな。見た通りバカでかい岩壁に覆われた通路が螺旋を描くような感じで徐々に下がっていく様な形をしている。
そして先に行くほど、通路がどんどん広くなる。浅層くらいならまだ通路の端を目でとらえることも出来るが、中層まで行くともう開けた草原を歩くのとそれほど変わらない。」
「壁と天井が光ってる?」
「灯りを持ってこなくても浅層までなら天井と壁が光っているからな。問題ない。ただ、中層以降になると天井も両壁も遠くなって、薄暗く、手元も見えなくなってくる。
中層から深層のレベル1まで行くと灯りで照らしても天井が見えなくなる。灯りが無ければ真っ暗闇さ。
面倒だからな。攻略が目的じゃないのだから、浅層をうろついた方が効率が良い。」
ランプを持って歩くのも手がふさがって面倒臭いからねぇ。ずんずん進み、掘っ立て小屋の並びを過ぎると、幾つか大きなテントが張ってある場所にでる。そこも通り過ぎて螺旋の中心側、右の壁沿いにそれなりの速足でずんずん先に行く。
これなら最短距離で先に進む事が出来る訳だ。
無警戒に進む元赤を見て、まだ浅層とやらは先なのだろうと勝手に了解する。
「ま、必要になったら灯りくらいは用意できるから。今更魔法をもったいぶる理由も意味もないからね。」
「あぁ、当てにしている。」
当てにされましょうとも。
この世界、背負い篭とか背負子っていう発想はあるのにバックパックという発想はないらしく、昨日の買い物で大き目の肩掛けのバックを一つと水袋を購入しておいた。横にぶら下げると邪魔になるから少しずらしてバックを後ろに回している。一応、そのバックにこの前買ったお洒落な魔法のランプを引っかけておいたけど、順当にいけばこのランプが活躍する機会はなさそうだね。
ちょっと残念。
「所で、さっきのスラム街に見えたアレは、一体何なの?」
「見た通りさ、スラム街だ。」
「スラム街?ダンジョンに?」
「あぁ冬は多いな。さっきも言った通り表層は滅多に襲われない。それに、分かるだろう?タナトスのダンジョンは、寒くない。雪も降っていない。
壁内に入り込んでいる貧民も多いからな。当然、暖炉や暖を取る為の焚火など望むべくもない者達も多い。時に命懸けにはなるが、外で確実に凍え死ぬよりは、ここにいた方が快適だし仕事もある。」
なるほど、だから外の衛兵たちは出入りを管理していない訳なのね。いったい何人の人が表層に入り込んでいるのか。ん……と。トイレとかどうしてるのかな?皆。まさかダンジョンにありがちな、吸収されちゃうから問題無し、とか?
ちょっと聞き辛い内容だから、考えるのは止めましょうか。
「仕事って、こんな所にある仕事って言うと冒険者の手伝い位しか思いつかないけど。何があるのよ。」
「そのままさ。仕留めた獲物を運んだり解体したり。命懸けにはなるが、飢えて死ぬよりは良い。浅層ならそれほど厄介な奴は出てこない。
ま、決まりや法則があるのか疑問だがな。深層から手ごわい奴が表層迄来たこともないわけではない。」
そうニヤリと笑う元赤。いやだからさ、そう言う……。
「フラグと言うのだろう?立てておいた方が良いさ。浅層で深層の敵とやり合えるなら、そこそこ安全に戦えるからな。
群れを成して出てきたら厄介だが、どの道何とかなるだろう。私と君ならな。」
こういう時無駄にカッコいいから性質が悪いんだよね、元赤は。何となく頬が熱くなった気がして視線を元赤からずらす。
「浅層にはどういう奴が出るの?ちょっと話聞くと大体なんでも出てくるみたいな話は聞いたことがあるけど、それでもダンジョン毎に傾向みたいのはあるんでしょ?」
「あぁ、浅層から中層辺りはありがちな混沌勢のゴブリンやコボルド辺りがちょろちょろ出てくるが、メインは3~4メートルの大きさの蟻だな。中層から深層のレベル2くらいにかけて、オークやバカでかい蜂が飛び交うエリアになっていくらしい。冬の活性化の時期には中層レベルの奴らが浅層迄よくやってくるようになる。
深層のレベル3辺りからアンデッドの領域に突入する。現在はその辺りが潜入限界ラインになっているが、探索系の奇跡で探った者の話によると、タナトスの終焉部はまだまだ探知の外にあるらしく、どの程度の規模に成長しているのか想像もつかんそうだ。
それと、ゴブリンだからコボルドだからと油断するなよ。ここでもそうだが、中層にゴブリンが出たからと言って雑魚だと気を抜けば一瞬で殺される。
浅層でも同じだが、敵がどれほどの強さを有しているかは、実際にやり合わないと分からん。ゴブリンのなりでドラゴンとタメを張れるほどの強者が浅層に出てくることもないわけじゃない。
まぁ、滅多にある事では無いが。
こればっかりは実際に対面して強さを肌で測るしかないからな。」
まぁ、道理だよね。ゲームで言えばレベル1のゴブリンとレベル100のゴブリンが見た目同じ姿で出てくるかもしれないよ。しかもダンジョンの最初の方でね。って事よね。現実ではあってもおかしくないシチュエーションだけど、これがゲームなら完全にくそゲーだよね。
ふと、話に夢中になっていた私達の目の前に、数十人の小型の獣人が警戒しながらおずおずと出てきた。一瞬身構えるけど、レーダーを確認すると敵対反応はない。
「前にも思っていたんだがな、その目の動き、妙だな。何やら秘密がありそうだが、魔法に関係するものなのかな。弟子としては非常に気になるが、まぁ今はいいか。
それよりも何の用だパップス共。」
槍がどんなチートを元赤に授けているのか、想像できないけど、私の目の動きからレーダーの権能に気が付きかけるって、ちょっと信じられない。それだけ元赤が私を観察しているって事なのかもしれないけど、イケメンがやるから許されるけど、そうじゃないとこれってキモイよね?
ここはまだ危険地帯だと認識していないのか、それとも敵意が無い事を理解しているのか、元赤も彼等を敵とみなしていない様だ。それにしてもパップスか。てっきり小型のオークかと思ったよ。
彼らの中で代表と思われるパップスが前に出てくる。
「あぁ、敵対の意思は無い。ただな、仕事の話があるなら声を掛けて欲しいと思ってな。何でもする。荷物運びでも肉壁でもなんでもな。
報酬は食い物でも金でも良い。倒した得物の肉を分けてくれるのでも良い。得物がゴブリンだろうがコボルドだろうが構わない。
死に損ねた我らを哀れと思うなら、切欠をくれないかな。」
夏の戦争を生き残った数千のパップスの人達なのかな。肉壁でも構わないから仕事が欲しいって言うのも強烈な言葉だけど。
切欠か……。
死ぬ為の?そう考えるとぞっとする。
「食い詰めたのか。悪いが雇うつもりは無い。得物も必要な部分だけ確保したら打ち捨てるつもりだ。ついてこられても面倒だからな。
ただ後から私達の獲物を漁る分には勝手にしろ。捨てたものをどうしようが拾った者の勝手だ。死にたがりの理由に使われるつもりは無い。私としては、だがな。
それでいいかな。」
思い出したように私に目線をやる元赤。無言で頷く私。正直、私一人なら獲物を一つ残さず持っていく事も可能なんだけどね。ストレージを公開するつもりは無い。早い所運搬系で有利になるマジックアイテム作りたいものね。
「解った。邪魔をしたな。」
粘らずにあっさりと引くパップス達。彼らの表情はよく分からないけど、そう言われるのは想像できていたようで、それほど残念そうにも見えない。今回は攻略が目的じゃなくて元赤の餌、いやいや。槍の餌をやりに行くのが目的だから、ゾロゾロ引き連れて進む意味はないわな。
「あぁ、そう言えば俺はパップスだがパップスじゃない。ジャネガって呼んでくれ。もし仕事が出来たら声を掛けてくれ。
それと、切っ掛けを求めはしたが、進んで死にたがっている訳じゃない。」
そう言うとジャネガ達は立ち去った。名前持ちのパップスか。初めて会ったな。
パップス達と別れてしばらく行くと踏みしめている岩肌の一部が微妙にヌルヌルしている部分が出てきた。ゲートをくぐってから大体40分くらいかな。
周りをよく見ると、ボツボツと彼方此方にでかい、そして端末の感覚だと小さい蟻の死体が彼方此方で仰向けになって足を天に向け倒れているのが見える。
このヌルヌルしたものは、蟻の体液かそれとも別の何かか。
漸く元赤が秘密の場所から槍を取り出す。私のレーダーにも反応がある。この流れだと蟻が出てくるものかと思っていたけど、反応から察するにゴブリンとコボルドの混成団が仰向けになっている蟻に群がっているようね。
ハンドサインなんてカッコいい物、私と元赤の間で決めた覚えはないけど、何となくの雰囲気でお互い無言で意思の疎通をする。静かに、了解、近寄って岩陰に隠れて状況を確認、真正面にゴブリンかコボルド、数10以上で距離は100から120メートル先。所々小声を交えて。
ダンジョンがなだらかに下っている為か、私達のポイントから彼らは丸見えだ。ポジションも良い。少々薄暗いけど目視でも奴らが何をしているか分かる。
蟻の死骸を食っている。つまり現在お食事中ってね。
レーダーで確認すると蟻の陰に入ってしまっている奴らを合わせて16匹。ゴブリンとコボルドってつるむんだね。
ギャーギャー五月蠅いから、私達の声が届くとは思えないけど、油断するわけにはいかない。
隠密を保ちつつ所々に地面から突き出ている岩影を伝って一度距離を取って作戦会議。ダンジョン内は無風だから、こちらの匂いが彼方に届く事は考慮に入れなくていいけど、犬型の亜人コボルドはその辺りは侮れない。
「どうする?」
小声で確認する元赤。
「魔法の矢ならあいつらがこっちに来る前に全部仕留められる。」
「それでは意味がない。」
「全部足を狙うことも出来るけど、着弾音が結構大きくて響くかも。」
「動けなくなった奴らに止めを刺せと?効率は良いが戦うというより駆除作業になるな、それでは。」
「ダンジョンで仕留める獲物は多い方が良いんでしょう?最初は駆除でも問題ないでしょ。それなりに着弾音が大きいから、音に惹かれて周りの奴らが集まってくるんじゃないかって考えているんだけど。」
「周りの蟻が一度に全部集まってきたら、いくら何でも死ねると思うが。奴らの死骸を確認しただろう?あれが数十単位、下手したら100を超える数で群がってきたら、どうにかできる自信はあるのか?」
一度目と二度目の転生の時と比べれば、小さいし数も少ないし、その程度物の数ではない、と何故か普段表に出てこない端末の意識がちょっかいを掛けてきた。
まぁ、端末なりのプライドがあるんだろうけど、その辺は世界も違うし世界観も違う。当然私の手元で使えるものは剣と魔法なのだから、近未来の武器は使えないし使うつもりもない。
その上で、考えてみる。「魔法の矢」では余程急所を狙わなくては一発で倒すのは無理だよね。装甲はそれなりに厚そうだし、何せ虫だから体の一部を吹っ飛ばされてもしばらく動くだろう。
体全体に強烈な衝撃を与えれば暫く動かなくなるかもしれないけど、そんな衝撃を与える手間を考えれば、その衝撃で頭を吹き飛ばしてしまった方がよほど楽だ。ただ一匹、二匹ならともかく数十匹を始末するとなると手が回るかどうか。
胸と腹の節に「魔法の矢」を当ててやって切断キルを狙ってみても良いけど、腹との接続を吹っ飛ばされても暫くは問題なく動くよね、奴等。だって虫じゃもん。
「私一人ならどうとでも切り抜けられるけど、あんたを巻き込まないでやれるかちょっと自信ないわ。無音で仕留めるなら、「理力の弾」でいけると思う。
発動音も殆ど無いし、風切り音もない。着弾音も対象物を貫通する音しかしない。慣れてきたから連発もそれなりに出来ると思う。
ただ、狙いを付けなきゃいけないからちょっと面倒かな。」
100発100中とはいかないけど、それなりに当てる自信はある。
「上等だ。この位置から当てられるか。」
ここからなら約200メートル。緩やかな撃ち下ろしで、当てるのはそれほど難しくない。岩陰から隠れて連射すれば、ただ屠るだけならこちらに気が付かれる前に全滅させられる。
「問題ないわね。出来るだけ足を狙った方が良いかしら?」
「あぁ、そうしてくれたら助かる。どの道、奴らの断末魔は響きそうだがな。」
実際の所、閉鎖されているとはいえこれだけ広い空間で「魔法の矢」の着弾音がどれほど響くか、実践してみないとわからない。着弾音より、ゴブリン達のあげる苦痛の声の方が響くのかもしれないし、その音が本当に蟻を呼び込むのかも正直はっきりとは言えない。……試すのは一人の時にしましょうか。
ショートソードを抜き放ち、即席で杖代わりに狙いをつける。やらなくても撃てるけど、あった方が気分的に宜しいし、狙いも正確になるような気がする。
目で合図するとスッと槍を構える。
「理力の弾!」
一度のトリガーボイスだけで、数発を一度に起動する方法にぶっつけ本番でトライしてみる。もちろんトリガーボイスで位置を悟られたら意味がないから出来るだけ小声で。同時に打ち出される2つの魔力で構成された光弾。
くぅ、それなりに余分に魔力を消費した割には同時発動数がしょぼい。
ライフル弾よりも高速で撃ちだされた光弾は、空気抵抗や重力の影響をうけずに狙った通りに大蟻に群がっていたゴブリン2匹の足と腰を打ち抜いた。
読んでくださり、ありがとうございました。
評価や感想をくださると私が喜びます。
いいね!を押してくれても嬉しいです!
さて、来週分かけているかどうか、土曜日の投稿時に追伸が無かった場合は来週はお休みになる可能性が高いです。
9月3日 13:25 追記 ギリギリ来週分は間に合いましたw