第64話 推察してみた
上機嫌の聖騎士を油断なく観察する。
こちらを騙すような雰囲気はやはり感じられなかった。
よほど演技が上手ければ見破れないかもしれないが、これまでの言動から考えるに聖騎士は直情型だ。
本心を殺した言動は苦手だと思う。
さて、どうすべきか。
王都に運ばれているはずの聖騎士がこの場にいる。
本人によると抜け出したそうなので、只事ではないのは確かだろう。
ちょっとした言葉で事態が一変する恐れだってある。
だからこそ大胆に仕掛けることにした。
俺は単刀直入に質問を投げかける。
「俺達に報復する気か」
「冗談はよしてくれ。君達と戦う理由がない。むしろ尊敬しているんだ。親友になりたいと思っている」
「親友だと……?」
俺は思わず顔を顰めた。
ビビも同じような反応をしている。
こちらの様子も気にせず、聖騎士は拳を握って力説し始めた。
「僕はあの戦いで己の弱さを思い知らされた。だから聖騎士の肩書きを捨てて、また一から冒険者としてやり直すつもりだ」
「本気なのか?」
「もちろんだとも。王国から追われる身なのでこの街に長居はできないが、必ず戻ってくるつもりだ」
もし本当ならとんでもない覚悟である。
わざわざそれを言うために街を再訪したのだろうか。
聖騎士は誇らしげだが、俺は心底から引いている。
案の定、ビビが辛辣な一言を告げた。
「別に戻ってこなくてもいいよ」
「ああ、ビビさん! そんなことを言わないでほしい。僕達の仲じゃないかッ!」
「他人だよ」
ビビは冷淡にあしらう。
聖騎士は縋りつきそうな勢いで食い下がる。
なんとも奇妙な光景だった。
これが演技とはとても考えられない。
ひとまず俺達に対して敵意が無いことは間違いないらしい。
それが分かっただけで収穫だろう。
(別に敵対する気がないなら、放っておいてもいいか……)
ギルドに報告するのが普通だが、別に義務でもない。
そもそも冒険者になるなら、必ずどこかで素性が暴かれるはずだ。
元から英雄と呼ばれるような人物なので、基本的には善人には違いない。
自分勝手な一面さえ改善されれば、今まで以上の人格者になるのではないか。
(とりあえず、職員にだけ伝えておこう)
彼女ならどうにかしてくれると思う。
もし問題があるようなら、再び捕縛されるだろう。
できればこのまま何事もなく済んでほしいものである。




