表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

兎森りんこ短編集

おこた令嬢~114年目のラブレター~

作者: 兎森りんこ

 


 今日も炬燵でミカンを剥く。

 うっかり呪いの炬燵に入ってしまって100年。


 うとうと眠ったり、ミカンを食べたり

 たまに鍋焼きうどんを食べたりの日々。


 おこた令嬢と呼ばれる始末。


 お父様もお母様も死んでしまったのに、お葬式にも出られなかった。


 屋敷でも厄介者扱いされていると思うけど、どうやったって、出られないのだもの。


 色んな本も読み尽くした。

 テレビもね、大好きな俳優も死んでしまったのよ。

 子役から晩年まで役者魂が凄かった彼を見送ったら、なんだか見る気も失くしたの。


「お嬢様、お手紙です」


 お手紙が郵便屋さんから届けられた。

 こんな風に暇だから、私は領民にお手紙を書くの。

 みんなお返事をくれるのよ。


 ある日


『いつも、お手紙ありがとうございます

 僕はおこた令嬢様の事が好きです』


 そんな恋文が届いた。


 114年生きて、初めての恋文。


 こんなの冗談よ。

 そう思っても、私は胸が高鳴った。


 おこたに座ってミカンを食べるしかない私を

 どうして好きだなんて――??


 もちろん身分違いっていうのもあるけども

 今更、屋敷のすみっこの座敷わらしみたいな

 こたつ令嬢が誰と好き合おうが

 今の(姉様の子供の孫? その子供?)の領主はかまわないでしょう。


 そしてそこから彼との文通が始まったの。


 私は、文才もないし彼も多分、文才はない。


 ただ、稚拙な文のやりとり。


「お嬢様、お手紙です」


 でも今までも嬉しかった響きが、ますます嬉しく感じられた。


『今日も、あなたの事を考えています』


 私も――!


 愛が人生にあると、こたつにいても最高にしあわせ。

 でも、最悪に不しあわせ、だとも改めて思う。


 こたつから出られないのよ。


 こたつで結婚式を挙げるの?


 いえ、それよりまず

 彼は私の姿を見ていないのよ。

 こたつに入った令嬢だなんて、本当に見たら笑うに決まってる。


『あなたと話したい』


 あぁ、とうとう

 そう言われる日がきてしまった……。


 私は怖くなってしまったの。

 だから返事はもう書けなかった。


 こたつの中で私は毎晩泣いた。

 絶望で、泣いたの。


 愛はもう戻らない。

 私の姿を好きになる人なんていない。



 そしたらね、


「お嬢様、好きです」


 郵便屋さんにそう言われたのよ。




お読み頂きありがとうございました。

感想など頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ほっこり [気になる点] しかし、生きながらに自分が座敷わらしと化してしまうとか、面白くも怖い。 変わらない自分をしり目に、家族はどんどん年をとっていって代替わりしてく…火の鳥みたい
[良い点] え、なにこれかわいい…(☉·̫☉) なんで炬燵に?!不老不死ってるの?! とか色々気になるけれど、 『私は、文才もないし彼も多分、文才はない。』 この一文が最高ですね!!!めっちゃ刺さりま…
[良い点] かわいらしい話だなあと思って読んでいたらラストの1行でやられました。 いや、完全に油断してたぜ! リバーブローからの砂糖を吐いたぜ! [一言] ここでヒロインが「郵便屋さん、お入んなさい」…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ