07
かぐや姫が待合室で琴を搔き鳴らしている為、
男性陣の人集りが出来て入れません。
仕方ない、言伝を頼んで帰りますか
注目されないよう隠れながら離れていきますと――
「ホスセリさま、何処へ行きますの?」
ギクッ! どうして分かったのです!?
「皆さま聞き惚れてましたから、
あのぅ……お邪魔してはご迷惑かと」
「本当にお優しい方。
ですが、時には強引に攫うことも必要ですのよ?」
かぐや姫は小さな琴をしまって微笑む。
あばばば! 周りの視線がキツイです!
「そろそろ参りましょう。かぐや姫」
「うふふ、馬車は呼んでおきましたわ」
男性陣に睨まれつつ、二人でデパート支店へ。
うぐぅ、此処でも注目されてますね。
彼女といると目立つので白頭巾を被りましょうか。
「いけません、ホスセリさま!
店内で被ったら不審人物で捕まりますわよ」
た、確かに。地獄に堕ちたら大変です!
「被りません! 最初に菓子店で予約を入れます。
次に、かぐや姫の行きたい所へ参りましょう」
「私はそこを目指していたのです。
天女の皆んなに差し入れしますのよ、
今回は色々と協力して頂きましたから――」
歓迎の演奏ですね、それなら私が払わねば!
丁度お店に着いたので支払いを申し込みましょう。
「いつも集まってもらい感謝しております。
本日は天女さま方にお菓子を奢りますよ!」
「また明後日の方を向いてますのね……
ですが、お気遣い有難う御座います。
お言葉に甘えますわ。う~んと、どれがいいかしら?」
明後日の方向? よく分かりませんが
ご機嫌伺いをしなければ人数が減ってしまいます。
「たくさん選んでくださいね! すみませ~ん、
オレンジパウンドケーキの予約をお願いします」
選んでる間に予約シートへ記入しますよ。
「あら、天女の好きなケーキですわ。
私たちもオレンジパウンドケーキでお願いします」
「ではコレで、他に有りますか?」
「いえ、もう十分です」
「じゃあ、パウンドケーキを5本ください」
「そんなに……多いですわ」
「日持ちするので大丈夫ですよ」
グダグダしているとカウンターの売り子さんが笑い、
「気前の良い、素敵な彼氏さんですねぇ~」
「ただの職場仲間です」
勘違いされては大変だと即答したら
な、なんと足を蹴られましたよ!?
「い、痛いっ!!」
「まあ、ケーキを取ろうとしただけですのに」
うう、これだから食いしん坊は困ります。
ヒリヒリしつつも荷物を持ち、
馴染みの写真館へと向います。
いつものお爺さんに現像を頼むと――
「おや? フィルムが残っていますぞ、
記念にお美しい二人を撮っては如何ですかな?」
「いえ、結構です。うわぁ、イタタタタ!!」
今度は足を踏まれましたよ、
あゝ此処は地獄の責め苦でしょうか?
「かぐや姫、まだ足が乗っかっています!」
文句を言うと更にぶつかってくる人まで!?
「おお、ホスセリではないか? 偶然だな!!」
「スサノオ様、どうして此方に?」
足も肩も痛くて泣きたくなりますが我慢です。
「ふふふ、俺はコレを作成したのだ!」
ジャーン! とアルバムを出すスサノオ様。
「中身を確認しても宜しいですか?」
何となく気になったのでお願いしてみます。
「う~む、男同士なら構わないが――
外に専用馬車を待たせてある。
ホスセリの部屋ならば見せても良いぞ!」
珍しく人目を憚るんですね……
もう~余計気になるじゃないですかっ!
「済みません、かぐや姫。
スサノオ様と帰ります、申し訳ありません」
「お仕事なら仕方ないですわ。
あら? スサノオ様、肩に糸くずが……
(スサノオ様、なぜ邪魔をするのです?)」
「済まないな、かぐや姫。
(純潔を守れと母及び姉上からの命令だ)」
「お先に失礼します。
(私は諦めませんわよ)」
「気を付けて帰れよ!
(やあ毒婦は怖い、暫くは無理だぞ)」
お二人とも佇まいに迫力ありますねぇ、
何やら熱い視線も交わしておりますし……
ふむ。性格も暴君同士、とってもお似合いです!
移動中、かぐや姫との交流を聞かれます。
うぷぷ、そんなに気になりますか?
「あくまでも職場仲間ですよ。
ふふふ、ご安心下さいませスサノオ様」
「うむ、どうやら進歩はなさそうだ。
しかし中々の策士、油断は出来ない……
従者の二人は使えぬな、後で注意しなければ」
わぁ、大人の駆け引きですね!
でもスサノオ様に従者はいない筈ですよ。
――それとも何かの作戦でしょうか?
ドキドキしてる間に宿舎へ到着、
奥の部屋に戻ってアルバムを開きます。
「では、拝見致します」
「ふはは、英雄の活躍をしかと見ろ!」
お言葉に甘えてパラパラとアルバムをめくります。
小さな頃から暴れん坊ですねぇ、
どの写真も体中アザだらけで笑っていますよ。
ふと、後半部分で目を止めたら……
「こ、これは! 八岐大蛇では!?」
「いいだろう? 記念撮影をしたのだ」
「あのぅ……戦闘中も撮ったのですか?」
全ての様子が細かく連写されているような――
「当たり前だ! そもそも
母上へ自慢する為に八岐大蛇を退治したのだ。
当然、全記録を隈なく撮らせておいたぞ!」
ぐあああ! 神話界随一の英雄イメージがぁ!!
「どうか、その話はご内密に願います!」
「やれやれ、姉上と同じことを言う。
分かっておる、写真屋の親父にも口止めしたぞ」
流石はアマテラス様、素晴らしい判断です。
「それなら宜しいのです。
次回はこのアルバムをお届けしますね、
済みませんが先に休みたいので……失礼します」
濃いキャラばかりで疲れましたよ、
スサノオ様を襖まで追い出して布団を敷きます。
「おい、まだ夕方だぞ?」
「もう疲れたのです」
「そうか、ではまたな!」
ニヤリと笑いドスドスと廊下を響かせ退出、
本当に台風のような神様ですね~
はあ、不運は重なって起きるものです。
まさに踏んだり蹴ったりでしたし、
本日も女性陣のパワフルさと暴君に負けました。
まあ、これ以上悪いことは起きないでしょう。
フカフカのお布団の中で失礼しますが、
皆さんと天界で会える日を楽しみにしております。
――それでは、おやすみなさい。