02
八寒地獄
一.「あぶだ」 寒さの余り鳥肌が立ちます
二.「にらぶだ」 鳥肌が荒れてあかぎれに
三.「あただ」 寒さによりアタタと感じます
四.「かかば」 舌が縺れてハハバと言います
五.「ここば」 口が開かずフフバになります
六.「うばら」 凍傷でひび割れ"青蓮地獄"
七.「はどま」 皮膚が裂けて"紅蓮地獄"
八.「まかはどま」 最も広大な"大紅蓮地獄"
さて書き終わりました。アイスを頂きましょう!
「――なぜ、平仮名表記なのかしら?」
「頞部陀など漢字は難しいので……」
溶けかかったアイスにパクつきます。
「説明がいい加減に見えます」
「ちゃんと書物を参考にしましたよ」
本当に "あたた" とか "ふふば" とあったのだ。
「確かに寒くて急いだ記憶はあります。
でも、これは酷過ぎますわ……
もう一度調べます。ホスセリ、いらっしゃい!」
「ええ!? どうして私が??」
「貴方は地獄を調べに来たのでしょう?
ならば詳細に記す必要があります!」
理屈は解りますが、寒さで神玉が終焉を迎えますよ。
「申し訳ありません、イザナミ様。
これから魂の引き取りがあるのです」
「では、次回来た時に向かいましょう」
――なぜ諦めてくれないのか?
「八寒地獄は寒い場所だと十分に伝わります。
この表現は真に迫っていて素晴らしい!
新たな文章で此処まで出来るかどうか……」
「ですが、八大地獄と違って軽い感じがします」
「いえいえ、寒さと言うのは辛いものです。
頑丈な鬼にでさえ登場しないのですよ?
我々が行ったらどうなるか……考えてみてください」
ピタリと動きを止めるイザナミ様。
「ほ、ほほ、そうでした。
以前、神玉が凍傷になりかけて大変でしたのよ」
ほら~危うく巻き込まれるところでした。
私が一緒に行っても精々、
"カタカタ"や"ブルブル"など表記は悪くなるだけです。
「そろそろお暇します。あと
これがスサノオ様からの手紙です。
それと何枚か写真を撮りたいのですが――」
「ふふ、幾つになっても甘えん坊ね。
わたくしの返事よ、あの子は喜ぶかしら?」
間違いなく感涙するので、ご安心を。
優しく微笑むイザナミ様を数ショット撮影します。
「とても綺麗に撮れました。
スサノオ様は歓喜して暴れ回るでしょう」
「うふふ、愛しい子です。
次は焼き菓子がいいわ、この間の……
オレンジが入ったパウンドケーキをお願い」
「了解しました。オレンジケーキを持って参ります」
「楽しみに待っているわ。
いつまでも可愛いホスセリ、お仕事頑張ってね」
もう子供じゃないのですよ!
纏めた書物を持ってイザナミ殿を出ます。
あんなに優しい方が地獄の創設者なんて……
ブルッ、背中がゾクゾクするのは
慌ててアイスを食べたせいですよね?