トーラスの大木
「アリサ、またここにいたんだ」
「うん、ここが私のすきな場所だから」
「ここにずっといて寒くないのか?」
「うん、ぜんぜん。蓮くんはさむくないの?」
「おれは部活で鍛えてるから」
「ふふ、一緒だね。でもうらやましいな」
「……」
「このおおきな木ね、さわると力をもらえる気がするんだ」
「そうなのか?」
「うん、かってにトーラスパワーってよんでるけど」
「なんだよそれ」
「それにこの木、昔はさくらの木だったんだ。でも、いちどだけ冬にはなを咲かせて、それからずっと花がさかないんだ」
「さくら?おれは、花が咲いてるとこみたことないけど」
「じょうだん!蓮くんの顔みてるのおもしろいから」
「アリサはよくわからないウソをつくよな」
「……ごめんね」
「そんな別に気にしないけど、それにしても、今日は月が綺麗だな」
「そうだね。でも、月が綺麗なのはあたりまえで、とおく手がとどかないほど、それはあざやかに見えて、わたしがほしいのは、綺麗なことばじゃなくて……ただ……」
「キスがしたい」