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勇者√←ディレクション!  作者: nns
夜が明けて
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第91話

 フィルさんはパンの端に伸びたチーズに苦戦しながら手に持つと柔らかく笑った。

 パン食べてるだけなのに、なんとなく上品な感じがするのってずるいな

 なんて思いながら、彼女の言葉を待つ。


「柱の周りだけは少し暖かいらしいの。それは封印が解かれる前からで、

 人々はあの周辺に集落を作って、細々と生活しているらしいわ」

「やっぱり……」

「やっぱり?」


 柱の周りが少し暖かいんじゃないか、というのは前から私も仮説を立てていた。

 柱はそれぞれ、その土地に足りないものを補うようにして存在していること。

 白夜だったルクス地方に、逆に日照時間が少なかったキリンジ国に。

 そんな話をすると、ルーク達は「へぇ〜!」なんて素直に感心していた。


「じゃあやっぱり本当みたいね」

「その人、フィルさんのお店に来たってことはこの辺に住んでるってこと?」

「多分もうこの街にはいないわ。短期で契約できる駐竜場を探しに来た人だったの。

 その人はたまたま見かけたドラゴンを捕獲してあの大陸を脱出したって言ってたわ」


 たまたま見つけたドラゴンってそんな簡単に捕獲できるものなの?

 と思っていたら、フィルさんの横にいたルークが素っ頓狂な声を上げて驚いていた。

 あ、やっぱり珍しいことなんだ。


「ルーズランドの人達って随分と逞しいんだね……」

「ちなみにその人、ちょっと片言だったわ。でも、片言でいいなら色んな国の言葉を喋れるみたい」

「へぇー。色んな国の人が集まった結果、ってことなのかな」

「そうかもしれないわね。あと、そこに連れてこられたんじゃなくて

 ルーズランドの出身だ、とも言ってたわよ」


 やっぱりあの土地に何らかの事情で行った人達のいくらかは生きていて、

 そこで新たな文化を築いているんだ。

 人ってすごい、なんて人間の生命力に感服していると、

 それまで私のパンを食べまくっていたマイカちゃんが思い出したように言った。


「あ、エモゥドラゴンよ」

「はい?」

「なんで急に神話の話を?」


 彼女が何を思い出したのかは私には分からない。

 マイカちゃんが思い出したのはクーの種類だ。

 その名前を聞いて、私だけが「あぁ!」なんて声を上げた。


「マイカはいきなりどうしたの?」

「あぁ、ごめんね。私達が龍の棲み家で譲ってもらったドラゴンの名前だよ」

「またまたー!」


 私の言葉を聞いたルークとフィルさんはケラケラと笑った。

 そんな面白かったかな、今の。

 とにかく二人が私の言ったことを真に受けてないのはよく分かったけど。


「エモゥドラゴンって神話の生き物だよ?」

「そうよ、実在するドラゴンの名前ではないの」


 私にはノームさんが嘘をついているようには思えなかったけど、二人のリアクションから、

 一般的にエモゥドラゴンが実在しないものと信じられているということは分かった。


 マイカちゃんが「そうなの?」と言うと、ルークは「そうそう」なんて返事をしながら、

 手に持っていたパンの最後の一口を口に放り込む。


「ま、私はクーがエモゥドラゴンじゃなくてもいいわ。私に懐いてくれてるもの」

「懐いてるかなぁ……怯えてる気がするけど……」

「そんなことないわよ。私はあの子とランとでルーズランドに向かうわ。人がいると

 いうことは、そこには人が生きられるくらいの最低限の環境は揃ってるってことでしょ」

「マイカちゃんも相当逞しいわね」

「そうそう、むしろマイカちゃんはどこだったら生きていけないのか知りたいくらい」

「多分、海中は無理ね」

「それ出来たらエラ呼吸に進化してるよね」


 それから私達は色々な話をした。

 今まで旅をしていきたところの話とか。

 フィルとルークが出会ったことのある変なお客さんの話とか。

 ついでに私達がこうやって普通に喋れるのは翻訳機のおかげだという話も。


 試しに翻訳機を取ってみると、お互いに何を言っているのかわからなくてめちゃくちゃ怖かった。

 ルーク達もギョッとしていた。


「それ、本当にすごいよね。ジーニアの人達に見せてもらったことがあって存在は知ってたけど、

 これまで普通に喋れてたラン達が何言ってるのか分からないっていうのは結構ホラーだな」

「たまにこの国の言葉が喋れないお客さんも来るから、私もそれ欲しいかも」

「十万チリーンだよ」

「高っ」


 金額を聞くと、ルークは目を丸くした。

 その反応がすごく面白くて、私達はみんなで笑った。


 そうして雑談をしている内に空が明るくなってきて、ロビーから見える窓に

 ちらほら人通りが出てきた辺りで、夜更かし会はお開きとなった。

 食べ物もなくなっちゃったしね。


 簡単に片付けをして、ハブル商社を出ると、朝日を見ながら背伸びをした。

 フィルさんは自宅に、ルークは今日も配達だそうだ。


 私達はこれからクーを迎えに行く。

 街を少し歩いて見ると、朝から活気付いていた。

 建物と建物の間を渡すように掛けられた横断幕には、色んな国の言葉で

 開国記念と書かれているようだった。


 お祭りが始まる。

 そわそわする街の空気に押し出され、私達は龍の棲み家へと向かった。



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