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勇者√←ディレクション!  作者: nns
極秘の配達任務
77/250

第77話

 身体を揺さぶられて起きると、事務所の中は真っ暗だった。

 ドロシーさんが持っているカンテラの灯りだけが頼りだ。

 賊にでも襲われたのかと思って飛び起きてしまった。


「びっくりしたー……」

「悪いな。事務所は深夜は閉めていることが多いんだ。今日に限って灯りが

 点いているのは不自然だと思ったから消してある」

「なるほど……」


 この仕事は極秘で遂行されなければならない。

 口すっぱくして言われてたことだけど、ここまでやるとは。

 辺りを見渡すと、マイカちゃんはまだ寝ていて、ルークが使っていたであろう

 寝袋はもぬけの殻になっていた。

 不思議そうな顔をでそれを見つめる私に気付いたのか、彼は言った。


「あぁ、ルークはドラシーの世話に行ってるぞ! しばらくは戻って来れなさそうだから

 多めに餌をやっとくらしい」

「そうですか……」


 私はずっと気になってたことを呟いた。

 ドラシーとドロシーって似てますよね、と。

 ルークはなんでこんなに紛らわしい名前を付けたんだろうと思っていたけど、

 私の疑問を耳にしたドロシーさんは笑っていた。


「そりゃそうだ! ドラシーは元々俺の竜だった。会社が軌道に乗って

 現場を退くときに、ルークに譲ったんだ」

「そうだったんですか。てっきりルークがふざけて紛らわしい名前を付けたのかと」

「わはは! まさか妹に譲ることになるとは思わなかったからな!

 おかげでルークがドラシーを呼ぶ度にぴくりと反応してしまうぞ!」


 それって結構めんどくさいんじゃ……だけどドロシーさんはいつものように豪快に笑っている。

 まぁ、譲るからって名前変えるのもなんだか可哀想だもんね。


 私達が話していると、事務所の扉がゆっくりと開いた。


「戻ったよー」

「おぉ。急いでマイカも起こさないとな」

「あ、マイカちゃんを起こすのは私がやるんでいいですよ、……って」

「おーい! マイカ! 起きろ! 出発だぞー!」

「うーん……」

「いてぇ!」


 マイカちゃんは呻きながらドロシーさんの顎に殴り飛ばした。

 突然の攻撃に、彼はなす術もなくまともに食らってしまったらしい。

 カンテラを床に置いて悶絶している。だから私が起こすって言ったのに……。


「うひゃー……これは取り扱い注意って感じだね……ランが起こすとこうはならないの?」

「誰が起こしてもこうなるよ」

「ヤバいじゃん」


 腰に手を当ててルークはすやすやと寝息を立てるマイカちゃんを見下ろす。

 もう少し離れてと小声で告げると、彼女はそっと数歩後ずさった。


「マイカちゃーん、朝ごはんだよー」

「はっ! もうそんな時間!?」


 飛び起きたマイカちゃんは辺りを見渡して状況を少しずつ把握しているようだ。

 しばらくして「あぁ……仕事だっけ?」と呟くと、髪を手櫛で整え始めた。


「ドロシーさん、どうしたの? ぶつけたの?」

「…………いや、なんでもない。少し野獣にぶつかられただけだ」

「……? ラン、もう出発なの?」


 なんとも言えない表情を浮かべるドロシーさんを憐れみながら、私は首肯する。

 時間が迫っているのを思い出したのだろう。

 彼は咳払いをしてから、カンテラを持って立ち上がった。


「打ち合わせ通り、まずは屋上に行くぞ!」


 私は腰に双剣の付いたベルトを、マイカちゃんは外していた小手と胸当てを装着した。

 寝袋から出てきてびっくりしたんだけど、マイカちゃん、ブーツは履いたまま寝たんだね……

 脱げば良かったのに……。


 呆れた視線を送っていると、キナ臭い仕事だからすぐに動けるように

 用心していたのだと告げられた。

 足元の装備だけで最低限の用心が完了する辺り流石としか言えない。


 事務所を出てぞろぞろと階段を上がると、屋上には月明かりをいっぱいに浴びたドラシーが居た。

 準備は万端だとその瞳が告げている。


「ごめんね、ドラシー。ドラシーは目立つから、今回は連れて行けないんだ」


 ルークはドラシーのくちばしを撫でながらそう言うと、こちらに振り返った。

 その表情はいつもの飄々としたものではない。

 こんな真面目な顔は見たことないってくらいに真剣な顔。

 なんだか私も釣られてキリっとしてしまう。


「二人乗りは無理だけど、ドラシーには場所教えてるから。まずは現地確認ってことで

 兄貴が行って、次にラン、マイカを乗せて移動する感じでいいかな」

「あぁ。何か問題があったら俺はドラシーと一緒に戻ってくる。俺が乗ってなかったら

 作戦続行だ。いいか?」


 私達はそれぞれ頷いて、ドラシーの背中に乗るドロシーさんを見守った。

 飛び立つ二人の背中を見つめるルークの横顔はやっぱり険しい。

 何かあったのかと聞くと、彼女は一言呟いた。


「今回の依頼、兄貴ははっきりは言わないけど……多分、国王からなんだ」

「えっ……?」

「どういうことよ、国王が依頼してくるなんて」

「分かんないけど、大きな仕事であることは確か。二人とも、信じてるからね」


 ルークは空を見上げる。

 どこか不安そうなその横顔に、私は「うん」としか言えなかった。

 ちなみにマイカちゃんは「誰にもの言ってんのよ、大丈夫に

 決まってんでしょうが」なんて言い切った。

 マイカちゃんはすごいなぁ……色んな意味で……。

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