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勇者√←ディレクション!  作者: nns
空の覇者との出会い
73/250

第73話

 私達は夕暮れの街の中を歩いていた。

 フィルさんに見せてもらった小屋に文句はなかったけど、私達は冒険者だ。

 できれば長期的な契約じゃなくて週単位で借りれるようなところが好ましい。

 いつ旅に出るか分からないしね。


 クーには悪いけど、落ち着いた家は全てが終わってから、私が責任を持って

 ハロルドに建ててあげるということで。


 そういった物件も少なくないが、たまたま空きが無いのだとか。

 出入りが激しいので、数日中には状況は変わるだろうと言われ、今日のところは帰されてしまった。


「クーのお家、残念だったね」

「そうね。これからは? マイティーミートに行く? それとも、中央区の人気肉料理店に行く?」

「どっちもマイティーミートじゃん。どんだけ好きなの。ま、行くけどさ」

「やった!」

「その前に一つ寄り道ね」


 私は立ち止まる。

 ちらりと看板を見上げると、マイカちゃんは私の視線を辿ってから首を傾げた。

 まぁ看板なんて見なくても、西区で私が場所を知ってるところなんて、一ヶ所しかないんだけどね。


「ここは、ハブル商社、だっけ……? ルークの会社じゃない」

「そ。気付いちゃったんだけどさ。ここって、世界中に荷物運んでるじゃん」

「そうね、それは私はもっと早い段階で気付いてたけど」

「いやそこじゃなくて。それは気付いてたっていうか知ってたよ。

 私が気付いちゃったっていうのは、ここ駐竜場あるじゃんって。

 空きが無いか聞いてみようよ」


 そう、ドラシーがいて、さらに他の竜使いも在籍しているらしいこの会社に、

 駐竜場がないのは考えにくい。ダメ元で聞いてみるとしよう。

 私だって、クーの為にできることはしてあげたいし。


 建物に入って、事務所を目指す。

 所狭しと並べられた荷物のあるフロアを通過してドアを押すと、

 そこにはカップを口にするルークが居た。


「やっほー。どしたの? 二人とも。例の仕事にはまだしばらく時間があると思うけど」

「あ、仕事の話じゃなくてね。相談というか、ダメ元のお願いだから

 あんまり深刻に受け止めないで欲しいんだけど」

「その前置き、逆に怖いね」


 ルークはけらけらと笑ってカップをデスクの上に置く。

 話をしようとしたけど、マイカちゃんが私の前に出て言った。


「竜のお家を探してるの。ここ、駐竜場、あるんでしょ? 余ってない?」

「……へ? え、何? どゆこと?」


 私はマイカちゃんの雑過ぎる説明を補足する。

 ルークは不思議そうな顔をしつつも腕を組んで耳を傾けてくれた。

 そして残っていた飲み物をくっと飲み干すと、付いてきてと言って歩き出す。


「どこに行くの?」

「屋上だよ。うちの会社の屋上は飛竜達が休めるように改造してるんだ。

 って言っても、うちみたいな会社はどこもやってることだけどね」

「そうなんだ」


 私達はルークを先頭にして階段を登る。


 屋上に出ると、感激のあまり自然と声が漏れていた。

 屋上にはいくつかの小屋があり、どれも十分な広さを備えていたのだ。

 屋根があるだけでほとんど屋外だけど、元々牧場で生活していた子だし、

 きっとクーは気にならないだろう。


 フィルさんに見せてもらった資料から考えても、相場以上の物件であることが分かる。

 真ん中はエサ場兼水飲み場になっているらしく、ドンと置かれた装置に入った

 ドライフードをドラシーがつっついていた。


「素敵じゃない。でもドラシーしかいないのね」

「そっ! ということで、空いてるとこ使っていいから」


 彼女は腰に手を両手を当てて、笑いながらそう言った。


「その日その日で空いてる小屋は変わるかもだけど、みんなが帰って来る日の方が

 珍しいから。どこかしら空いてるとこを使ってもらうってことで」

「ホントにいいの? 家賃は日割りでいいかな?」

「え? いや、いいよ。コロコロ変わるお家でお金なんて取れないし」


 なんて太っ腹なんだろう。

 遠慮とかじゃなくて本当に受け取るつもりが無いみたいだから、

 エサ代とかなんとか言って最低限はあとで渡すとしよう。


「にしても二人がまさか飛竜を欲しがってたなんてね。言ってよー」


 言うもなにも、思い立ったが吉日と言わんばかりの行動だったからね。

 前から欲しいなんて思ってなかったっていうか。

 飛竜を飼ってる人が聞いたら気分を害するかもしれないから黙っとくけど。


「どこのお店で見つけたの?」

「龍の棲み処ってお店だよ」

「……マジ?」


 ルークは眉を顰めた。

 その理由は私達には全く分からなかったけど、彼女の反応は「まさかあの店を

 訪ねるなんて」というものに見えた。


「いや、ごめん。あそこ、あんまり評判良くないんだよ。気に入らない客は

 容赦なく追い払うとかなんとか」

「あー……あの人、それくらいしそうだね」

「そうね。でも私達は追い返されたりしなかったし、きっと人を見る目がある人なのよ」

「前から思ってたけど、マイカってすんごい自信満々だよね」

「慣れたらチャームポイントだよ」


 私はそう言って、暗に彼女はこれからも変わらないと伝える。

 その”慣れるまで”が大変なんだけどね。



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