表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者√←ディレクション!  作者: nns
百夜の装置 白の柱
49/250

第49話

 レイさんは悪い笑みを浮かべて、私とマイカちゃんに「そこをどけ」とジェスチャーで言ってきた。

 そっと立ち上がると、クロちゃんを押し倒して、寝るなー! と耳元で叫ぶ。


 クロちゃんは慌ててレイさんの腕の中から逃れようとしていたけど、力では

 敵わないのか、半べそになりながら「呪ってやる……呪ってやる……」と震えていた。

 ちょっと可哀想な気もしなくないけど、寝てたのはクロちゃんだしね。


「で、レイさんの考える方法って、何?」

「簡単だよ。この封印を一次として、新たに二次の封印を作る」


 私達は息を飲んだ。

 言ってることはすごく壮大で真面目なんだけど、じたばたと暴れるクロちゃんを

 組み敷いて笑ってる人が言うもんだから、緊張感が皆無だ。


「そんなことできるの?」

「あたしもその方法については色々と考えてたんだけど、ランちゃんが

 ここに来たことによって、もしかしたらクリアできたかもって思ってさ」

「どういう意味?」

「そりゃこっちが聞きたいよ。どうやって魔法陣を発動させたの?

 この塔にも、黒の塔にもあったはずだけど」


 私には女神や精霊に声を届ける力がある。

 それをできる人は私の他にもいるだろうけど、私のそれは

 めっぽう届きやすいし聞き入れられやすい。

 双剣を見せてその時の話も絡めて伝えると、レイさんは目を輝かせた。


「すごいじゃん。それならマジで作れるよ、新しい封印。この柱の封印を解除して、

 さらにランちゃんが作った封印を解除したとき、やっと新しい剣を抜けるようになる。

 そういうものを作ればいいんだ」

「新しい剣って?」

「ハロルドの剣を抜けるようにするってんなら、ハロルドのこと守れないじゃん。

 別の場所に違う剣を封印するんだよ。まぁその剣を作るのが一番のネックだったんだけど……

 まさか鍛冶屋で女神の力を付与できる人間がここにくるなんて」


 レイさんはやけに嬉しそうだ。

 抵抗することを諦めたのか、大人しく抱き枕になってるクロちゃんには悪いけど、

 なんとなく仲よさげでほのぼのしてて、傍から見る分にはいい感じだよ、二人とも。


「実を言うと、ここに閉じ込められてからずっと、ミラに話し相手になってもらっててさ。

 それで聞いたんだよ、封印を作ったときのこと。すっごい昔の話。

 当時の魔王がイケイケで人間界を手中に収めようとしていた時代の話。

 空に開いた魔界との穴を防ぐことが急務で、神々が話し合ってこの封印の仕組みを作ったとか」


 私はようやく、ミラが「助けて」と言った理由が分かった気がした。

 こんなことを根掘り葉掘り聞かれてうんざりしてたんだと思う。

 まぁ、一人ぼっちで可哀想だろうし、無下にはできないよね。

 でも多分、毎日こんなマシンガントークに付き合わされたら、結構困るよね。


「魔王を討てればよかったんだけど、その時代にはそんな力を持つ者が居なくて、

 相応しい者が現れたときに力を授けられるように待ってたんだってさ。

 その間に魔王が変わっちゃって、まぁ結果危機は去ったワケだけど。

 何が言いたいって、要するに、急いでいない今なら人命を犠牲にしなくてもいい

 仕組みを作れるんだよ。あたし達が力を合わせたらさ。見てよ」


 レイさんはばーっと喋ると、起き上がって両手を広げた。

 壁に刻まれた模様だと思っていたもの全てが、石で削って書かれた数式のようなものだった。

 私達が来た時に壁で何をしていたのかをやっと知って、この人本当に変人だなと少し畏怖する。


「理論上、できる。人の命を使わずに、この星に生きる全ての生命体の力を少しずつ借りる形で。

 要するに、誰も死なずに今の剣に匹敵するものが作れる」


 私達はもちろん、レイさんから離れようとそろりそろりと動いていたクロちゃんも動きを止めた。

 レイさんの目は、力強く輝いていた。

 今まで誰も成し遂げていない偉業を、夢ではなく現実にしてやろうという目だ。


「私達は、どうすればいいの?」

「塔に囚われているのは巫女だけじゃない。柱の力を維持するために、

 女神たちもまたそこに縛られてる。剣には四大柱に関わる女神の力の付与が絶対不可欠だ。

 今ハロルドにある剣にもそういう加護が付与されている。

 それさえできれば、今の剣と同等のものが作れるんだ。

 そこにさらに適当な女神に協力してもらえば、今の剣よりもすごいものが作れる」

「つまり……?」

「私達巫女はそれぞれ塔に繋がれている女神達の媒介になれる。

 巫女を一箇所に集めて、剣に力の付与をすればいいんだよ」

「どちらにせよ、巫女の救出は必要、ってことだね」

「うん、そりゃまぁ。でも、元々やるつもりだったんでしょ?」

「まぁね」


 私は笑った。

 旅の最終目的がはっきりして。それがとんでもなくハードルが高いもので。

 だけどこれからのハロルドを完璧に守る唯一の方法だと確信して。

 期待と不安と、喜びと。

 色んな気持ちが綯い交ぜになって、私は笑っていた。


 そうと決まればここを脱出しよう、そう言って振り返る私に付いてきてくれたのは

 マイカちゃんだけだった。


 いやおかしいでしょ。

 振り返ると、クロちゃんはぼーっとしていて、レイさんは「ここに書いてある数式

 全部メモるまで待ってー!」と騒いでいる。

 かっこいい旅立ち、一度でも出来たことあったっけなぁ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ