第47話
サライちゃんからはレイさんの特徴を聞いてなかったけど、なんとなく彼女と同じように
青い目の金髪の女性を想像していた。
っていうか姉妹でこんなに見た目が違うって有り得る?
「アンタ、誰なの?」
にじり寄るように近付く女を警戒しながらマイカちゃんが言う。
誰っていうか、まぁ流れからいってこの人がレイさんなんだろうけど。
クロちゃんが無言で私の服の裾をぎゅっと握る。
彼女も不安を感じているようだ。こういうところは年相応で可愛いんだけどなぁ。
「私達はあなたをここから助けるために来たの。私はラン、あなたはレイさん。だよね?」
一歩踏み出して自己紹介をしてみる。
私がそう言い終えると、レイさんらしき女性はケラケラと笑って言った。
そうそう、あたしがレイだよ、と。見た目に反して随分と軽い口調の人だ。
「あたしを助けに来たか。誰の差し金? ルーベル学園? いや、パリス研究所かな」
「いえ、私達は」
「いいっていいって、当てるから」
レイさんは腕を組んで首を傾げながら私達を観察している。
身なりから何者かを判別しようとしているようだ。
なんとなく楽しそうだけど、どうして組織の名前ばかり挙げるのだろう。
こういうとき、普通は真っ先に家族の名前を挙げるもんじゃないかな。
「私はレイさんのこと、全然知らないけど……多分、あなたには当てられない気がする」
「そーゆーこと言われると燃えるなー。分かんないことって大好き」
「ねぇラン、巫女って変人しかなれないの?」
「マイカちゃん、しっ」
「その理屈で言うと私が巫女なのがおかしいことになる」
「いや適切でしょうが」
クロちゃんがむすっとしていると、レイさんがたっと走ってきてクロちゃんの顔を覗き込んでいる。
サライちゃんと似ているところがないと思っていたけど、背の高さは親譲りなんだろうか。
私が二人の数少ない共通点に気付くとほぼ同時に、レイさんがクロちゃんの頭を
ぐりぐりと撫で始めた。
「なっ、やめっ」
「この子かわいーねー! さっき巫女って言ってたけど、もしかして黒の柱の巫女!?」
「そ、そうだけど。離せっ! だったらなんだっていうの!」
「いやいや、すごいじゃん。あたしさー、ミラと話をするんだよ、暇だからさ。
そんで何ヶ月か前にミラが言ってたの。黒の柱が現れたって。
要するに君達、黒の柱消しちゃったってことでしょ?」
彼女はイレギュラーをとことん楽しんでいるようだ。
サライさんの話ではジーニア屈指の天才と呼ばれていたらしいけど、
ちょっと話しただけでレイさんが色んな意味でまともではないことが分かる。
そもそも、私達がここに来たらもっと驚くでしょ。
それに喜んだり警戒したりする筈だ。
あと、こんなに嫌がってる子の頭を構わず撫で続けられる神経もちょっとよく分からない。
いやホントにやめてあげてってば。クロちゃん泣きそうじゃん。
私はレイさんの手を掴んで、ぽいと放る。
クロちゃんを庇うように前に立って、黒の柱を消したことについて
首肯してみせると、彼女はまた笑った。
「最高じゃん。あたしのことも出してくれるの?」
「うん。だけど、一つクイズ。好きでしょ」
「そりゃね。でもなんて言われるのかはもう分かってるよ。君達に私の救出を依頼した
組織がどこかって話でしょ」
「当たりだけどハズレ。私達は元々あなたを救うつもりでここに来た。
それを知って協力してくれた人がいる。それを当ててごらんよ」
マイカちゃんが私に「何ムキになってんのよ」なんて耳打ちしてくる。
なんでこんなにムキになってるのか、自分でもよくわかんないけど。
多分、私は悔しいんだ。
あんなに躍起になって姉を救おうとしたサライちゃんの名前が一番に挙がらなかったことが。
意地でもサライちゃんが助けにきてくれたって、この人の口から言わせたい。
その一心で、こんな下らない問答をするくらい怒っている。
「……いや、分かるよ。組織じゃない。そうでしょ」
「なんっ」
「あんまり考えたくなかったけどね。あたしを助けるのに協力したのは、サライだ」
分かってたのか。それが少し意外で、そのまま顔に出ていたらしい。
私の表情を見た彼女は、ため息をついてから手で額を押さえた。
「無茶しちゃって……あたしがいなくなって一番得すんのは、サライなのに」
「損得じゃないでしょうが!」
「分かってるよ! 分かってるけど、そうやって割り切ってサライには生きて欲しかった。
その為に、あたしが中途半端にして置いてきた研究を全部サライに預けてきたんだ」
切なげな表情を見て、私は悟った。
多分、レイさんは、サライちゃんがこの件に関わっていると思いたくなくて、
それで色んな組織の名前を挙げたんだ。私達に肯定して欲しくて。
「あたしを助けることに加担なんて知れたら……っはぁ、柄にも無いことしちゃってさぁ」
そうしてレイさんはぽつんと置かれたベッドを指した。
私達三人をそこに座らせると、彼女は地べたに胡座をかいてこちらを向く。
誰もいないこの空間で話しておきたいことがあると切り出し、彼女はおもむろに語り出した。