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勇者√←ディレクション!  作者: nns
魔法と科学の街 ジーニア
38/250

第38話

 私は本とにらめっこしていた。


 魔法というのは、同じ効果を発現できる言葉が地方によって異なるらしい。

 例えば、火を出す魔法は私達のルクス地方では主にトーラと唱えるのが一般的らしいけど、

 キリンジ国周辺ではイーラというのが一般的だとか。

 両者の呪文にほとんど差違はないそうだ。

 正しい地域で正しい呪文を使っていれば、の話だけど。

 要するに魔法にも地域間で言葉の壁があるということだ。


 呪文なんて元はイメージを補助して精霊に呼び掛けるきっかけを作るものに

 過ぎなかったらしいけど、長年人間達の呪文を聞き続けてきた精霊は、

 言葉そのものに反応するようになった、と本には書いてある。


 なるほど、そういうことなら一定の魔力を持つ人間なら誰が使っても同じ効果が

 発現するようになったのも頷ける。

 昔は同じ呪文を唱えても人によって全然威力が違ったりしたんだろうなぁ。


「……」


 呪文についてそこまで理解して、私は沈黙していた。

 ただなんとなしに言葉を発していなかったのではない。沈黙する、ということをしていた。


 要するに、真っ当に魔法を使えるようになるって、それってすごく大変では。

 とりあえず、ここではイーラ。ルクス地方に戻ったらトーラ。それは覚えた。


 だけど、魔法ってたくさんの種類がある。

 炎系の魔法だけでも、単純な攻撃魔法から防御壁の魔法、あとは仲間に属性を

 一時的に付与することもできるらしい。

 攻撃魔法だけで何ページもあるし。

 そしてそれが、それぞれの属性分存在しているのだ。


「……無理では?」

「ご一緒してもよろしいですか?」


 一人でひっそり絶望していると、後ろから声をかけられた。

 振り向く前に誰か分かった、サライちゃんだ。

 ちなみにマイカちゃんとクロちゃんは私の正面に座って、それぞれ適当な本を読んでいる。


 マイカちゃんが何を読んでいるのかは分からないけど、クロちゃんは

 本を持ってきた時に見せてくれた【大工の基礎】をずっと読んでる。

 特に釘打ち関連のページに繰り返し目を通しているようだ。

 彼女が《《あの》》釘打ちに匠さを求めてるのは意外だったな。


「準備は進んでいます。まだ数日かかりそうですが……急いでいるのにすみません」


 サライさんは外ではやっぱり敬語だ。

 今も、たまたま隣の席が空いているので相席したけど、元々の知り合いではないという顔で、

 人目を盗むようにこっそり話し掛けてきている。

 私は彼女に調子を合わせて返事をした。


「別にいいよ。ところで準備って?」

「脱走の準備です。列車のレールをできるだけジーニアから離れたところまで

 伸ばしたいのですが、思うように進まなくて。

 レールが伸びれば伸びるほど、当然ですが高速で移動できる距離を稼げます」

「ちょっと待って。私達、この街から列車で脱出するの?」

「そうですよ、荒唐無稽に思われるかもしれませんが、いまのところこれが一番確実な方法で、

 その準備が難航しているんです。

 信頼できる人員の確保はなかなか難しくて……私達は元々そういった作業は畑違いですし」


 さらっと肯定された事実に私は驚愕していた。

 でも、そっか……確かに列車に乗れれば、そこからお姉さんの姿を

 人に見られる心配もしなくていいんだ……。


 大胆だけど合理的だ。

 そうと決まれば。私達はお互いに顔を見ないように、本に視線を落としたまま会話を再開した。


「鍛冶職人が手伝ってくれるとしたら、嬉しい?」

「それは願ってもないことですね、職人さんであれば、少なくとも私達よりも

 手際よく作業できるでしょうし」

「ジーニアの街外れに、すごく腕のいいドワーフの職人がいるんだよ」

「……手伝ってくれるでしょうか」

「ドワーフの言葉って翻訳機に入ってたりする?」

「彼らも地域によって話す言葉が違うらしいですが、この周辺に住んでる方なら

 恐らく通じるでしょうね。商売をされているということは、

 意思疎通出来る人達がそれなりにいる、ということですから」


 言われてみればそうだ。

 私は妙に納得して、思わず彼女を見そうになった。

 がさごそという音が聞こえる。

 すっと差し出されたのはキリンジ国のパンフレットだった。


 顰めていた声色が、少しだけ大きくなる。

 周りの人に聞かれても問題ない発言なんだろう。


「よろしければ、これを。こちらは観光向けの冊子です。で、これがこの周辺の地図になります」

「あ、ありがとう……? あぁ」


 その職人の居場所を地図で示せということだろう。

 私は差し出されたペンで木々が生い茂っている一帯の、とある地点を丸で囲った。


 しょうがないよね。正確な位置なんて分かんないし。

 私はゴーグルを外して、地図と一緒にサライちゃんに渡す。

 万が一言葉が通じなかった時の保険だ。

 それに私が言ったって信用してもらえないかもしれないし。

 あれを見せればきっと信じてくれるだろう。


 私はやけにスースーする胸元に違和感を感じながら、再び本へと視線を落とした。

 寝る時なんかは当然外しているけど、日中活動しているときにあれを

 付けていないなんて、かなり落ち着かない。


 読んでいたはずのところを見ても全然頭に入ってこなくて、

 結局その章の始めから読み直すことになってしまった。

 今更だけど、本って苦手なんだよなぁ……。


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