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勇者√←ディレクション!  作者: nns
【キリンジ国】 キリンジという国
33/250

第33話

 ドワーフのおっちゃんに連れてこられたのは、彼の家だった。

 広大な土地に好きな家を建ててやったぜ、という感じの部屋の作りだ。


 部屋の中の物などを見たところ、ずっとひとり暮らしみたいだけど、

 こんなに広い家に一人で暮らしたら寂しくなるんじゃないかってくらい広い。


 風貌の通り、彼は鍛冶屋だったらしい。工房も、私の家の倍は広い。

 見たところ武器を専門で作っている人のようだ。


「はぁ!? なんで! 私が! 薪割り! なんか!」


 憤りの色を一切隠さず、ぷりぷりと怒りながら、マイカちゃんは

 ものすごい勢いで薪を割っている。

 生まれて初めての薪割りらしいけど、カンカンと規則正しく聞こえる音は素人のそれとは思えない。


 私とクロちゃんは部屋の掃除をさせられている。

 寝室は粗方終わったので、次は工房に入ろうと思う。仕事風景も見たいし。

 私は窓からマイカちゃんに「じゃあ私達工房の方行くからー」と声を掛けて移動した。


 それからしばらく、私は工房の至るところにこびり付いた汚れを落とすのに集中していた。

 時間を忘れて作業をしていると、近くの湖にでも入ってきたのだろうか、

 こざっぱりとしたおっちゃんが帰ってきた。服もちゃんと着替えているようだ。


 頭のてっぺんに角の付いた兜はお気に入りなんだろう。

 洗って濡れたまま持ち帰ったかと思うと、いの一番に風の当たりやすいところに放置されていた。

 頭にかぶるものは念入りにしないとね……顔、というか鼻に近いからね……。


「ΓΓΓΓγγΓγγΓγΓΓγγ!」

「うーん?」


 おっちゃんは相変わらず何を言っているのか分からない。

 だけど、表情とジェスチャーを見ればなんとなく分かる。

 多分、これから作業するから、掃除なんていいからこの辺には立ち寄るなって言ってる。


 私はクロちゃんをさっとリビングに避難させる。

 二つの部屋は扉の無い通路で繋がっていたので、移動はすぐだ。

 よく見るとドアが付いていた形跡があるから、多分おっちゃんが邪魔だと取り払ってしまったのだろう。


 そんなところ一つ取ってみても、彼が私の父やマチスさんと同じで、

 職人気質な性格であることを窺わせるようだ。


 キリンジ国の鍛冶屋の作業風景、見たくないワケがない。

 私はさっと彼の後ろに立って作業を見つめる。

 自慢じゃないが、邪魔にならない立ち位置で気配を殺すのは慣れてる。

 幼い頃から培われてきた得意技だ。



 修正などではなく、彼は一から剣を作っている。金属を叩く音もテンポも一級品だ。

 プロの仕事は淀みなく進み、変な音がしないから子守り歌になる、というのは父の持論だった。

 私がそういう音が嫌いじゃない子供だっただけだと思うけどなぁ。


 懐かしいことを思い出しながら、しばらく彼の作業を見守っていた。

 汗が目に入りそうになって、この山間部で自分が初めて汗をかいていることに気付いた。

 私は自分の作業のように、おっちゃんと同じ気持ちで作業を眺めていたのだ。


 小気味良い音が響く。軽快でいて、時たま強く角を潰すような音がしたり。

 その全ての音に意味があって、おっちゃんがその音や手から伝わってくる感触から、

 金属の状態を完璧に把握していることが私にも分かる。


 剣を打つ時はとにかく火加減が大事だ。足元で金属を真っ赤に熱しながら、叩いて伸ばす。

 彼は火を見る目も持ち合わせているらしく、絶妙なタイミングで釜の中から金属を出しているようだ。


 これについては、私は憶測でしか言えない。

 だって、最高のタイミングというものを私はまだ知らないから。


 そうしてまたしばらく作業を見守っていると、彼はおもむろに立ち上がった。

 それまでの動作から焼き入れをするんだと察した私は、すぐに熱処理の工程で

 使用するであろう水槽のような器具の前に立つ。中には水が入っている。


 叩かれた熱い金属が急激に冷やされていく様を見るのは大好きだ。

 ワクワクしながら邪魔にならないところに立ち、感動的な瞬間に立ち会う。


 じゅうぅぅ……と燻るように水を蒸発させる金属。最高。私は小さく拍手をしていた。

 だってこんな見事な職人さんの作業を間近で見れることって滅多にないし。


 おっちゃんは見られると燃えるタイプのようで、一度も私に見るなと叱ったりはしなかった。

 むしろ焼き入れが終わった金属を私に見せびらかすようにして掲げてくれた。



 そうして彼の作業を見届けていると、いつのまにか夕刻になっていた。

 一仕事終えたあとでこんなことを頼むのは恐縮なんだけど、マイカちゃんはうちの主砲だし、

 できるだけ早急に直したい。彼に壊れた小手を見せて「お願い!」とジェスチャーしてみる。


 しかし彼は眉間に皺を寄せ、首を横に振った。

 まぁ、そうだよね。おっちゃんめっちゃ腕いいし。

 おしっこかけてきた一行に打ち直してやる装備なんてないよね……。


 私が凹んでいると、おっちゃんは私にハンマーを差し出した。

 持ち手がこちらを向くように。

 お前がやれ、ということだろうか。


「ΓΓ、γ!」

「私が、ここを借りて作業していいの?」


 こんな広々とした作業場、本当にいいのかな。

 ハンマーを受け取ってマイカちゃんの小手を手にとって作業机に座る。

 振り返ると、彼は腕を組んで笑っていた。



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