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勇者√←ディレクション!  作者: nns
戦いのあとに
244/250

第244話

 レイさんがクーに「あれやってよ」と伝えると、クーは笑顔で頷いた。

 アレというのが何なのか、私には分からない。

 知っている可能性があるとすればクロちゃんくらいだけど、

 クロちゃんも不思議そうに首を傾げていた。


 クーはぐんぐんと体を大きくして、腹の底から響くような声で唸った。

 そして空に向けて火を吹く。

 不意に周囲が明るくなって、街がぼんやりと照らされる。

 周辺は、何度見てもやっぱりめちゃめちゃだ。


「レイさん? これ、何してるの?」

「みんな色んなところに隠れてるって聞いたからさ。

 全部終わったら、このドラゴンが芸をして知らせるって伝言を回してもらったんだよ」

「すごい……そんなことまで考えていたなんて……」


 目先のことしか見えない私達とは違うんだ。

 そう感心していると、レイさんはヘラヘラと笑って首を振った。


「違う違う。あたしだってそこまで考えてなかったよ。

 でも、避難を手伝ってあげた人達はみんな聞いてくるんだよ。

 戦いが終わったあとのこと。ランちゃん達が絶対どうにかしてくれるって、信じてたんだろうね」

「そう、なんだ……」


 みんなが私達の勝利を信じていてくれたなんて……

 こみ上げる感情を一人で処理しきれなくなってマイカちゃんを見てみると、

 何故か誇らしげに腕を組んで頷いていた。可愛い。


 クーが出してくれた合図のおかげで、街に人が戻ってくる。

 私はすっかり背景に溶け込んだ光景を、そろそろやめさせようと顔を向けた。



 失言をしたウェンが、光の手のひらに体を拘束されながら、

 右足を火で、左足を氷で責められ続けていたのだ。

 闇魔法の応用で光を奪っているらしく、彼は何も見えない状態で

 ずっと「ごめんってば!」と叫ぶ装置と化している。


 まぁあのままでも死ぬ事はないのでほっといたんだけど。

 そろそろ解放してあげなくちゃ。

 ウェンがっていうより、他の人がこんなの見たらショックだろうし。


 みんなに彼を解放するように伝えて、無事に地上に降ろされるのを確認してから、

 地べたに座ったままのカイルへと振り返った。


「一応聞くけど、私から伝説の剣を奪って魔界に行くつもりがあったりする?」

「……あったとしてもできない。それは君が一番よくわかっているだろ」


 そう、勇者からはあの眩しいまでのオーラが消えていた。

 今の彼は普通の人だ。

 何かを代償に力を一時的に高めたのであろうとは思っていたけど、

 彼が支払ったものは想像していたよりも大きいものだったのかもしれない。


「多分、数年ほどかけて力は戻っていくと思う。

 君達を倒して封印された剣さえ手に入れれば、僕自身の力が尽きても、

 剣からの供給でどうとでもなるはずだったんだけど」

「俺らがどうにかすりゃいいんだろ!」

「でも、ウェンだって、さっき力を」

「俺の力はこいつと違って修行で得た力だ!」

「どういうこと?」


 ウェンは語った。

 カイルは道中で出会った魔族からあの力を授かったのだと。

 軽蔑の視線がカイルに突き刺さる。

 彼はそんな視線に晒されることを覚悟していたのか、

 申し訳なさそうな顔をして、僕がバカだったと呟いた。


「そういえば、ジェイも魔族から力を授かったとか言ってたっけ」

「ジェイ……コタンの村の近くに居た奴ね」

「そうそう」


 その魔族はカイルに、人間を残虐に殺せるかと聞いてきたという。

 タダで力が入るならと、彼はこの街の剣を抜こうとしていること、

 抜くとどうなるかを話したらしい。

 そして魔族は彼に力を授けたんだとか。


「あれはおそらく、争いを好まない現魔王の敵対勢力だろう。

 多くの人が死に、さらに現魔王を倒す旅をしている僕と、利害が一致したんだと思う」

「そんな……」


 カイルを、勇者一行を止めることができれば、この旅は終わりだと思っていたのに。

 これまで意識していなかった大きな力の蠢きに絶句していると、

 それまで静かに話を聞いていたヴォルフが口を開いた。


「まぁ、ワシはそこの二人よりはマシじゃ。簡単な魔法なら使えるしの。

 カイル、これからどうするつもりじゃ」

「……二人とも。もう契約は終わりだ。今日いっぱいで傭兵は解雇する。

 王族と縁を切る僕には、二人の給料なんてとても払えないからね」


 カイルはそう告げると、ようやくふらふらと立ち上がった。

 そして言った。

 その魔族を見つけ出して倒す、と。

 これまでの償いとして、彼は初めて自分でその未来を決めようとしているようだ。


 だけど、簡単な道のりじゃない。

 ましてや、力が使えない彼では。

 なんて声を掛けようか迷っていると、ウェンが肩を回しながら立ち上がった。


「おう、分かった。で、じいさんはどこまで魔法使えるんだ?」

「転送陣の発動は微妙なところじゃの。それさえできれば」

「……何をしてる」

「しゃーねぇ。俺がおひめさま抱っこしてやんよ」

「いらない。やめろ。離せ。……そうじゃない、僕は」


 ウェンは軽々とカイルを抱えて笑った。


「お前は勇者じゃなくて仲間になった。だろ?」

「……勝手にしろ」


 すごくいいシーンだと思う。

 ちゃんと支えてくれる人がカイルにもいたんだなって、ちょっと安心したくらい。

 だけど、お姫様だっこされてるからすごく変な光景に見える。

 そういえばオオノとマト、元気かな。



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