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勇者√←ディレクション!  作者: nns
【作りたての伝説】作りかけの伝説
214/250

第214話

 私は双剣を腰から外し、そっと台座の上に移動する。

 ここに刺しなよ、そう言うように、台座の真ん中に二つの穴が並んで開く。

 精霊達もなかなか粋な演出してくれる。

 クロスさせてそれっぽく設置すると、台座を離れた。


 見守っていた巫女達は、私が離れたのを見ると、台座の周りに立つ。

 唱える呪文が無いせいか、ニールだけは音楽が始まる前のダンサーのようなポーズで止まっている。



 三人は同時に、台座に向かって手を掲げた。

 レイさんがおもむろに呪文を唱えると、クロちゃんとフオちゃんもそれに続く。

 その音に乗っかるように、ニールがモクギョをポクポク叩きながら体を動かす。


「……あれ、何やってるの?」

「多分だけど、三人の呪文に合わせて音を出したり動いたりして、巫女のパワー送ってるんじゃない?」

「私達は何を見せられているの?」

「分かんない」


 ニールさえ見ないようにすれば、厳格な空気の中、美しい巫女達が女神に祈りを捧げる……

 現場に見えなくはないけど、ニールを見えなくするって無理だ。

 だって台座の周りぴょんぴょん跳ねてくるくる回ってるし。

 ちょっと、全裸なんだからあんまり脚開かないで。

 きっと本人は適当に叩いてるだけなんだろうけど、クロちゃんの詠唱の調子が

 ニールのモクギョに若干釣られてる。

 地獄みたい。


 驚くことに、あれでニールの分の祈りは注げている、ということになっているらしい。

 台座に刺さっている私の双剣が淡く明滅を始めた。

 赤、青、白、黒。巫女達が司る属性の色。

 周りをぽくぽくうろうろしてる変人さえいなければ、さぞかし幻想的な光景だったろうなぁ……。


「んびっ」


 クロちゃんの後ろを通り過ぎようとしたニールが派手に転ぶ。

 両手を掲げてくるくる回っているところで躓いたらしい。

 横っ腹を強かに強打し、腹部を抑えてうずくまっている。

 双剣の光から、青だけが脱落する。


 ふと視線を動かすと、すっと後ろに片足を伸ばしているクロちゃんがいた。

 呪文を唱えながらニヤニヤが抑えきれないって顔をしてる。

 ニールが転んだ原因を知りながらも、私とマイカちゃんは口出しすることはしなかった。

 呪文が途中で止まるって良くなさそうだし。



 ニールが立ち上がる様子はない。

 なんと彼女は座ったまま、片手を天井に翳して目を瞑っていた。

 脚もくねくね動かしている。

 クロちゃんの妨害にも屈しない姿勢を見せているようだ、姿勢はおかしいけど。

 どういう種類のバトルを見させられているんだろう。


 ニールの努力の甲斐あって、双剣の瞬きに青が戻る。

 しょうもないものを見せられてるって分かってるのに、私とマイカちゃんは「おぉ!」と湧いてしまった。



 光は徐々に強く激しいものになっていく。

 闇を奪ったはずの空間が暗転する。

 双剣の輝きだけが光源の空間。

 横を見ると、マイカちゃんも驚いた顔で周囲を見回しているので、

 私だけに起こった変化、というわけではなさそうだ。


 巫女達も異変に気付いているだろうか。

 声を掛けようにも、みんな真剣に呪文を唱えている。

 ニールの動きも最高潮を迎えている。

 背中を地面に付けたまま気を送るように双剣に手を伸ばして切なげな表情を作っていた。

 そしてさらにモクギョも忘れない。

 気持ち悪いな。


「ふはは。久しいな、ラン。そして同行者マイカよ」

「この声は……!」


 声は私の頭の中ではなく、洞穴の中に響いていたらしい。

 マイカちゃんが姿の見えない声の主に反応する。


「誰なのよ」

「お決まりのボケをかましつつ女神に失礼なこと言うのやめようね」


 私はマイカちゃんにそう言い聞かせて教えてあげた。

 この声はディアボロゥだと。

 言葉を交わすのは黒の柱以来だから何ヶ月も前のことだ。


 あの頃は、私とマイカちゃんは旅を始めたばかりだった。

 巫女がこんなにキャラの濃い人達ばかりだなんて知らずに、ただ街を救う為にそこを目指していた。


 何年も前のことじゃないのに、すごく懐かしい気持ちになる。

 私はディアボロゥに挨拶をすると、次に聞こえてくるであろう声を待った。


「こんにちは。まさかこうして柱を司る女神が一同に介するだなんて。不思議なこともあったものですね」

「ミラ!」

「あぁ、レイの相手させられてた可哀想な女神ね」

「女神に可哀想って言うのやめてあげて」


 なんていうの、女神って基本的に崇め奉られるような、憧れられるような存在だから。

 可哀想がるって可哀想だから。


 しかし、マイカちゃんの指摘に心当たりがあり過ぎるのか、ミラは特に反論もせず咳払いをした。


「おっ、ズルっ子。ったくお前は、封印を重ねるなんてまぁたズルいことを」

「あら、フレイ。ズルっ子って誰のことですか?」

「ランだよ。こいつ、赤の柱で」

「そ、その話やめません!?」


 さっきから色んな人にやめよう? って言ってばっかりだな、私。

 だけど、赤の柱での失態を話されるのはちょっと恥ずかしい。

 ふと気になって目を向けると、手は辛うじて双剣の方にうねうねと動かしながらも、

 しっかりと聞き耳を立てているニールに気付いた。


「ニールはちゃんと祈り捧げようね」

「そうですよ、ニール。ランさんに迷惑を掛けるのはいけません。

 ところでミラさん、ランさんが私の柱でゲボまみれになった話、聞きませんか?」

「何それ!? 聞く聞く!」

「やめて!!!」


 ミストはやってきてすぐに爆弾発言をしようとしていた。

 ミラさん、敬語も忘れてワクワクしちゃってるじゃん。

 なんなの。


 こうして集まってみると、巫女もだけど、女神も大概キャラが濃いなぁ

 なんてことにようやく気付いてしまった。



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