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勇者√←ディレクション!  作者: nns
【作りたての伝説】作りかけの伝説
211/250

第211話

 クーはいつもよりもスピードを落として飛んでるはず。

 だというのに、水の壁がぐんぐんと近付いてくるせいか、体感スピードがものすごく速い。

 眼前に迫った滝を見つめ、いつの間にか手綱を握りしめていた。


 レイさんが魔法で傘を作ってくれているとはいえ、怒濤の勢いで

 落下する大量の水の迫力は伊達じゃない。

 ここを潜るなんて、すごく恐ろしい。

 きっと、クーもちょっと緊張してると思う。

 だけど、絶対引かないって分かってる

 。背中に乗せてもらってる私が怯えるなんて、あんまりにも情けない。


「いっけー!」


 私は自分を鼓舞するように、クーを励ますようにそう言った。

 だけど、お腹に響いてきそうな大きな水の音に、ほとんどかき消されてしまっている。

 それくらいでちょうどいいけどさ、ちょっと恥ずかしかったし。



 クーは傘よりも少し高めの位置から、ほとんど勢いを殺さず、穴へと滑空する。

 心臓がひゅってなる。怖い。

 手綱をぎゅっと握ろうとして、これ以上固く握れないってことに気付いた。


 水の中を突っ切って、開けられた穴の中に突入する。

 無事に入れた。

 水の音が聞こえて、だけど私達が立てる物音も反響していて、すごく変な感じがした。


 クーは穴の比較的手前で止まると私達を下ろした。

 どれほどの奥行きがあるのかはまだ分からないけど、結構奥まで続いているようだ。


「グオウ!」

「うん、ありがとう。私達はここで待ってるから、みんなをよろしくね」

「気を付けなさいよ」


 私達が声を掛けると、クーは嬉しそうに声を上げて振り返る。

 元気のいい返事がわんわんと穴の中に木霊した。


 何事も無く飛び立つクーを確認すると、すぐに精霊に呼び掛けて、壁を補強してもらうことにした。

 クーの声が響いた時、奥の方でパラパラ……という不穏な音が聞こえたからだ。


 ここで生き埋めとか、絶対に嫌だ。

 でも、あれだけの水が流れているんだから普通に有り得る。

 ただでさえ強固な地盤が必要とされているところを抉るなんて、考えれば考えるほど無茶をしたと思う。

 私じゃなくてマイカちゃんが、だけど。



 地面に手を付いて見えない存在に語りかけると、彼らは快く壁や天井をならしてくれた。

 ボロボロだった空間が徐々に綺麗になっていくのが分かる。

 手に触れている箇所も、ごつごつとした感触が消えていく。


 そして、私は巫女達が来る前に補強を終えた。


「すごい、壁がつるつるになったわ!」

「ここまでしっかりしてくれるとは思わなかったけど……これで格好が付いたね」

「そうね。伝説の剣を求めてきた後世の勇者が、がっかりしない程度には」


 綺麗になった壁に触れながら、マイカちゃんはうんうんと頷いていた。

 適当に掘ったようにしか見えない穴が、精霊達のおかげでちょっとした隠れ家に昇格した。



 私とマイカちゃんは、クーが飛んできても邪魔にならないように、穴の奥へと移動する。

 平になった壁に背を付けて、マイカちゃんと並んで座った。


 次に来るのは、フオちゃんとニールのはずだ。

 もうそろそろだろうと、滝の方を見つめる。

 そこで、私はこの穴の中に光源が無いことに気付いた。


 今はレイさんの光の魔法で照らされているけど、これが消えれば、きっと真っ暗闇だ。

 何かしておいた方がいいかもしれない。

 立とうとしたところで、マイカちゃんに腕を掴まれた。


「え? なに?」

「休んでなさいよ」

「でも、ここ暗いと思うんだよね」

「そんなの、レイが来てからやらせればいいでしょ」

「……それもそっか」


 他の属性の魔法ならいざ知れず、光属性の力についてはレイさんの右に出る者はいないだろう。

 居るとすれば、歪に力を食らい続けたヴォルフくらいだと思う。

 私は彼女の言葉を受け入れ、みんなが揃うまでのんびりすることにした。



 一瞬でもヴォルフのことを思い出したせいか、この先で起こるであろう戦いに思いを巡らせる。

 表情が曇っていくのが自分でも分かる。


 勇者、カイル。

 そしてその従者、ヴォルフとウェン。

 ウェンはマイカちゃんと互角以上にやりあった手練だ。

 そしてヴォルフも。

 双剣という切り札を失った私達が、果たしてあの一行に勝てるのだろうか。

 今回はみんなが付いているとはいえ、やっぱり不安にはなる。


「ラン。下らないこと考えてるでしょ」

「……そうかも。この双剣を封印するって決めたのは自分なのに、

 これがなくちゃ勇者に勝てないかも、なんて考えてる」

「そんなことだろうと思った」


 呆れた口調とは裏腹に、マイカちゃんは私の肩に頭を乗せる。

 伏し目がちな視線が何を見ているのかは分からないけど、彼女が楽しいことを

 考えているワケじゃないのは分かる。


「戦いが終わったら、私達は一緒に帰るの」

「うん……」

「で、私の家に行ったら、まず居なくなった経緯から説明して平謝りするの」

「妙にリアルな想像やめてくれる???」


 そうだった……そういえば、マイカちゃんって勘違いで私について来ちゃったんだ……

 こんな長い旅になるなんて、絶対にマチスさん達に説明してない……。


 風を切る翼の音と、クーの元気な声が聞こえてきたけど、

 今更思い出したショッキングな事実に、私は首を動かすことが出来なかった。



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