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勇者√←ディレクション!  作者: nns
管理塔での攻防
191/250

第191話


 大地から精霊の生命力は感じるけど、それが砂の精霊なのかは分からない。

 砂漠だったから咄嗟に「砂の精霊さん」なんて呼び掛けてしまった。

 応えてくれるか少しだけ心配だったんだけど、それは杞憂だった。


 地上から大量の砂が棒状にせり上がって、その一本一本が彼らを受け止める。

 突然のことにみんな動揺しているみたいだ。

 やけに暴れている人もいるから、もしかすると、マイカちゃんの攻撃から私の魔法までを、

 一連のコンボか何かだと思っているのかもしれない。


 数時間睨み合ったり魔法をぶつけ合っていた相手が、自分を助けてくれていると

 考える方がおかしいから、彼らの誤解については理解できる。

 下手に暴れて抵抗しないように、体を押さえているしね。


 本当はこんなことしたくないんだけど、不意を突かれて

 魔法を唱えられたら厄介なので仕方がなかった。

 塔で倒れている魔導師についてはマイカちゃん達に任せる。

 いきなり攻撃されたら困るから当然気になるけど、そっちにまで気を配っている余裕はないから。


「暴れないで!」

「離せ! 貴様ぁ!!」


 砂で包むように受け止めた男性の内、一人が網にかかった魚みたいに大暴れしている。

 あんまりぎちぎちにすると、どこか骨折させちゃいそうだし、かと言って

 せり上がる砂の範囲を多少広げたところで同じように逃げ続けるだけだろうし。

 どうしたものかと考えた結果、私は巷で言われてる封印者らしく振る舞うことにした。


「動くな。殺すぞ」

「くっ……!」


 あんまり口にしたくない乱暴な言葉に合わせて、締め付けを少しだけキツくする。

 私の脅しを聞いて抵抗することを止めてくれたようで本当に良かった。

 やれるもんならやってみろ、なんて言われたらどうしていいか分からなかったから。


 だけど、私の脅しは必要以上に恐怖を煽ってしまったらしい。

 遠のいていく悲鳴に顔を向けると、こっそりと抜け出そうとしていた男性が

 背中から地上に着地しようとしているところだった。

 いくら砂の上とは言え、あんな落ち方をしたらただでは済まないだろう。


「もう……! どいつもこいつも……!」


 私は焦燥にかられながら逡巡する。正直、もう間に合うか分からない。

 だけど、目を背けるべきではないと思った。


 ほぼ地上にいる彼をそのまま受け止めても、それって落下したのとほとんど変わらない。

 落下予測地点だけを落とし穴みたいにしてから、できる限り衝撃を殺してキャッチしようか。


 私が精霊に再び呼びかけようとした、その時だった。


「っぶなー! ドラシー、ナイス!」

「グルルルルル……」


 すごく、懐かしい声がした。

 旅に出て初めて、本当に仲良くなれた友達の声。

 乗り物ならドラゴンでも馬車でも、なんでも乗りこなしてしまう移動のスペシャリストの声。


「ルーク!?」

「はは、どこ見てんの!」


 崩れた壁から身を乗り出して、落ちそうになるのも厭わず地上を見下ろすと、

 地上には仰向けに寝かせられた男がいるだけだった。


 声のした方、空を見上げる。

 そこには、ドラシーに乗って空中に留まり、手綱を握るルークの姿があった。


「久々だね」

「なんで、ここに……?」

「ちょうど配達に来てたんだよ。で、青の柱が消えて、管理塔の方から煙が上がってるのが見えたから。来ちゃった」


 ドラシーはきりっとした顔でうんうんと頷いている。

 ルークの言う事が分かるのだろうか。信頼し合っている二人なら有り得る話だ。


「主よ、その御心で我らを救い……」


 二人で話し込んでいると、背後から声がした。

 転送陣の側に居た魔導師はほとんどが起き上がってマイカちゃん達と戦っていたというのに、

 その内の一人がこちらに向けて詠唱式の魔法を唱えているところだった。


 室内組は自分達の戦いに手一杯になっていて、気付いていない。

 それもそうだ、戦闘に慣れているのはマイカちゃんだけなんだから。

 元々フオちゃんは治療が専門だし。

 ニールについては使う魔法が危険過ぎてむしろ今は使って欲しくないし。


 妨害の為、ファイズを唱えようとしたんだけど、その前に私の真横を

 すごいスピードの何かが通り過ぎていった。


「不意打ちは感心しないな」

「ヤヨイさん!?」

「フオ……本当に柱から出られたんだな」


 ドラゴンに乗って現れ、飛び降りながら魔導師を止めたのはヤヨイさんだった。

 声を上げたのはフオちゃんだ。私は驚き過ぎて言葉を失っていた。


 ちなみに刀の鞘で殴られた魔導師はうつ伏せになってぴくりとも動かない。

 どうやら気を失っているようだ。


 それにしても、なんでヤヨイさんが……?

 見慣れないドラゴンが彼女の傍らで少し狭そうに羽ばたいている。

 右手に刀を、左手に鞘を持って、彼女はこちらを向いた。


「久しぶりだな、ラン」

「は、はい……!」

「戦闘中によそ見をするな」

「あ……はい……」


 再会直後に怒られてしまったけど、凹んでいるとまた怒られそうなので、

 私は背筋を伸ばしてからマイカちゃん達を見た。


「拘束している魔導師共についてはルークに見張らせておくといい。行くぞ」

「で、でも……!」


 ルーク一人に任せて大丈夫だとは思えない。

 見張ることは出来ても、異変が起こってから私達に教えてたんじゃ遅いし……って思ったんだけど、

 やれやれという顔でボウガンを取り出す姿を見て、本能的に「あ、大丈夫だな、これ」と思った。

 そういえば、お兄さんのドロシーさんも狙撃の名手だったっけ……。


「私、これ使うのあんまり好きじゃないんだ。だから、使わせないでね」


 やば。

 こわ。


 私はさっきまでの葛藤が嘘のように、ヤヨイさんに向かって走り出した。



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