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勇者√←ディレクション!  作者: nns
乾きを知らぬ碧の杜 青の柱
178/250

第178話


「マイカ! 一人でキラキラ、できるな!?」

「余裕よ……! 任せなさい……!」


 フオちゃんの問いかけに、マイカちゃんが勇ましく答える。

 その内容は一人で吐けるかっていう、とんでもなく汚くて情けないものなんだけど。


 とにかく無理やり手を空けてくれたフオちゃんと一緒に水面をくまなく探す。

 少しでも怪しいものがあると、火球を飛ばしまくってチェックした。


 その甲斐あってか、残り的の数はあと一つ。

 あと一つでこの地獄から解放されるのだ。

 クーは私の肩に移って、一緒に怪しいものが無いかを見てくれている。

 クーからはキラキラ的な意味でちょっと危険な香りがするけど、

 今はそんなことを言っている場合ではない。


「どっこにあるんだよ!」

「フオちゃん! 気持ちは分かるけど落ち着いて!」

「おろろろぉぉぉ……」

「もう!! あと一個どこ!?」

「ラン! 落ち着け!」


 さっきからこんな調子で全然最後の一つが見つからない。

 舟はめちゃくちゃなスピードで走り回っているけど、その代わり

 部屋の中を縦横無尽に動いてくれている。

 通っていないところはこの四角くてだだっ広い空間には無いはずだ。


 もうだめだ、っていうかもういやだ。

 ミストに話し掛けても、返ってくるのは笑い声だけ。

 ディアボロゥさんが四大柱の女神の中で一番の曲者だと思っていたけど、その記録を更新してくれた。

 全然有り難くないけど。


 全てを無視して別の女神の力を借りて塔を壊したくなる衝動を抑える。

 そうして、ふと上を見上げると、そこには私達がずっと探していた最後の的があった。


「あーーー!」

「クオ!?」

「あ、びっくりさせてごめんね。フオちゃん! 見つけたよ!」

「何!? どこだ!」

「あそこ!」


 私が天井を指差すと、フオちゃんは「んのやろー!」と怒号を飛ばす。

 分かる、ムカつくよね。一個だけ天井にあるとか、設置した人、絶対に性格悪いよね。

 動き回る舟から狙いを定めるのは至難の業だ。


 私とフオちゃんは嫌味ったらしく赤く光る的を狙って、魔法を連発した。


「ファイズファイズファイズ!」

「おらおらおらおらー!!!」


 すごい、なんで「おらおら」でちゃんと魔法発動できてるんだろ。

 怒りで無理やり精霊を従えてるとしか思えない。

 相当頭に来てるんだろうな、フオちゃん。


 私達のどちらかが放った魔法が的を破壊すると、ゴゴゴゴゴと音を立てて新たな道が開かれた。

 だけど、そこは人が歩けるような通路じゃない。水路。

 それも舟で上るのを前提とされているような、さっきと同じ坂道。


「い、いつになったら降りれるのよー!」

「マイカちゃん、落ち着いて!」


 ――素晴らしいです……!


「っるっせぇー!」


 フオちゃんがミストの感嘆の声に遂にブチギレる。

 ちなみに私は止めなかった。だって絶対笑い転げながら煽ってるでしょ、あの人。


 舟が水路に向かう。

 あのフロアに辿り着くまでに通った道と似ている。

 あといくつこんな拷問みたいな試練を乗り越えなくちゃいけないんだろう。


 道の向こうに光が見えてくる。今度こそ舟から降りられますように。

 そう願いながら、光の中に飛び込む。


「……へ!?」

「うわーー!」


 急な坂道を上りきった先にあったのは、浮遊感。

 勢いよく次のフロアに侵入した舟は空中を舞い、体が投げ出される。

 このままだと、きっと、水の中に落ちることに……!


 そして地上を見ると、無慈悲なことにただの地面だった。

 水の中に落ちちゃうって思ってたけど、地面よりはマシだからどうにかその方向で調整して欲しい。

 そりゃ早く舟から降りたいとは思ったけどさ。

 あぁ、だめだ、ぶつかる。


「へぶっ」

「っでぇ!」

「おごぉ!」


 一つ目は私が地上に背中から着地したときの声、二つ目はフオちゃん。

 そして三つ目は腹の上にマイカちゃんが降ってきた私の声だ。

 死んじゃう。


「み、みんな、怪我はない……?」

「いったたた……とりあえずは大丈夫だ」

「私も……うっ」

「あっ、ちょっと待っ」

「おえぇぇぇ」

「あぁぁぁ!」


 私に覆い被さっていたマイカちゃんがキラキラする。

 私の胸にキラったブツが盛大にかかる。

 あまりにも無慈悲なその展開に、私は絶叫する以外できない。

 マイカちゃんが落ち着くのを待ってゆっくりと避けてもらうと、

 私はフオちゃんに向いて、両足で踏ん張って立った。


「……?」

「いいよ、やって」

「……何を望んでいるのかは想像付いたけど、死ぬなよ?」

「多分、そんな強い魔法じゃないから大丈夫」

「分かった……キーナ!」


 呪文で生み出された波が私を襲う。というか洗い流す。

 息を止めて、波が過ぎ去るのを待つ。

 全身びしょ濡れになったけど、キラキラまみれよりはずっとマシだ。


 その様子を見ていたマイカちゃんは「何もそこまで嫌がらなくていいじゃない」なんて言ってたけど、

 これを気にしないってすごいヤバい人だって早く気付いて。


 そんなひと悶着があって、やっと周囲を見渡した。

 四角い石造りのフロアで、これまでの苦労が吹き飛ぶようなものを発見した。


「転送陣だ……!」

「マジかよ!」


 私が声を上げると、みんなが駆け寄ってくる。

 そうしてそれを見下ろす。

 間違いない、これでやっとこの苦難も終わるんだ。


「……今までの柱で、今回のが一番キツかったね」

「これまでの全部足しても、この塔には敵わないわね」

「ま、まぁ。二人の助けになれたなら、あたしはそれでいいよ」


 私達は転送陣の中に納まるように立つと、ミストに語り掛けた。


 ――えぇえぇ。あなた方は素晴らしかったです。ここに来た勇者達なんかよりもよっぽど面白、素晴らしかったです


「お前あたしの前に姿を現したらマジでボコボコにしてやるからな」

「ま、まぁまぁ。というわけで、ミスト。いいよね」


 ――当然です。他の女神と共に、あなた方の漫才、じゃなかった行く末を見守らせていただきますわ


 いちいちムカつく言い方だったけど、とりあえず巫女の部屋に送ってくれればもうそれでいいや。

 視界が白く飛ぶ。瞬きをする間に、巫女の部屋と転送されたようだ。


「のやろー!」


 フオちゃんの怒号が部屋に響く。巫女がその声に驚いて目を丸めている。

 だけど、私達の驚きはきっと、その比では無かった。


 だって、巫女。全裸なんだもん。

 「あ、またヤバい人だ」、そう呟いてしまったけど、ただの事実だから、いいよね。


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