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勇者√←ディレクション!  作者: nns
乾きを知らぬ碧の杜 青の柱
176/250

第176話

 ゾンビの道は克服した。

 前と後ろ、両方に同時に現れたとしても、私とフオちゃんで対処できる。

 どんとこいって感じだ。


 私達は先ほどよりも少しだけ元気に先を急いだ。

 あとちょっとで舟が並んでいる大部屋に到着する。

 残念ながらヒントのようなものは現状も見つかっていない。

 たまに天上を見たり、壁のくぼみっぽいところを確認しているけど……。

 舟自体に何か細工が施されていないかを確認するしかないかも、なんて考えてるところだ。


 この道中にも、もう大体慣れてきた。角を曲がるとゾンビがいるはずだ。

 私は魔法の準備をしながら一歩踏み出し、ゾンビの姿を確認すると同時に、

 魔法の波で彼らを水に戻した。


「慣れたものね」

「この魔法、水球を飛ばすんじゃなくて、波ってところがいいよな」

「そうそう。一回で事足りるから」


 通路の真ん中くらいまで歩いていると、頭の中で声が響いた。

 足を止めたのは私だけじゃない。

 フオちゃんも、マイカちゃんまで周囲を見渡している。

 クーは突然聞こえた謎の声に驚き、翼を広げて誰もいないところを威嚇している。可愛いね。


 ——素晴らしいです


 女性の声が何かを褒めている。おそらくは私達のことだろうけど。

 次いで拍手をするような音まで響いてくる。


「なんなのよ、アンタ」


 ——あら、察しが悪いのですね


「……ミストさん、ですよね?」


 ——正解です。うぅん、素晴らしいです


 なんだこの人、『素晴らしいです』が口癖なのかな。

 とにかく、私達に語りかけてきているのは、この柱を司る女神のミストさんらしい、

 ということが分かった。わざわざ向こうから話し掛けてくれたんだ。

 どう考えてもこれはチャンスだろう。


「私達が素晴らしいというのは、ゾンビの正体を見破ったから、ってことだよね?」


 ——うぅん、素晴らしい。実に素晴らしいです。私が素晴らしいと言い、さらにその理由すらも自ら導き出して言い当てるとは。素晴らしすぎる


「あ、あぁ、うん。そっか」


 ダメだ、この人めちゃくちゃ話しにくい。

 何回素晴らしいって言うの。


 私はたじろいでいるだけだけど、横を見るとマイカちゃんは殺気立った目をして壁を睨んでいた。

 怖いよ、イライラするのは分かるけどさ。ね、笑って。


 ——恐怖心を抱くと過剰に他者を傷付けようとしてしまうのが人間です。あなた方はそんな心理をも乗り越えて、隠された真実へと辿り着きました


「あぁもう! 偉いとか素晴らしいとかは分かったから!

 別にアンタに褒められたくてそうしたんじゃないわよ!

 それよりも私達はなんであんたが話し掛けてきたのかを知りたいの!

 まさかわざわざ褒め讃えるためだけに女神直々に声を掛けたわけじゃないでしょう!?」


 マイカちゃんはばーっと捲くし立てるようにそう言うと、またむすっとした顔をして腕を組んだ。

 言い方は大分キツいけど、私が言いたかったことはまさにこれだ。

 物怖じせずにズバズバと意見を述べるマイカちゃんを見て、フオちゃんも若干引いている。


 ——私が女神だということを知ってもなお態度を変えない! 素晴らし


「だからそれはもう良いのよ!!」


 マイカちゃんは近くの壁に拳を押し当てるようにダン! と叩く。

 フオちゃんは、まあまあと言ってマイカちゃんの肩に手を置くと、ミストに語りかけた。


「分かりやすく言うぞ。あたしらは先を急いでいる。舟をどうにかしたい。

 手を貸してくれるつもりが無いなら、もう話し掛けないでくれ」


 落ち着いた声ではあったけど、その分すごくトゲを感じる言い方だ。

 元々フオちゃんが結構怖い見た目だから、余計キツく感じる。


 ——ふふ。分かりましたわ


 そう言ってミストは笑った。

 ようやく話してくれる気になったか、とフオちゃんは安堵し、マイカちゃんも表情でそれを語っている。


 しかし、それから少し経って、ミストの返答が何を意味するのかを知ると、私達は三者三様の反応を示した。


「はぁ!? ちょっとなんなのよ! 分かりましたって、まさか「褒めに来ただけだから、もうおいとまするわ」ってこと!?」

「あー、さすがにイラついてきたな」

「えぇー……今までの女神も大分アクが強かったけど……青の柱の女神ヤッバ……」


 なんなの。タイミング的に舟の攻略法を教えに来てくれたんだと思うじゃん。

 マイカちゃんはバクハツ寸前って感じで、私は頭を抱えた。

 それを見たクーは心配そうに首を傾げている。

 ごめんね、クー。ただちょっと弄ばれただけだから気にしないでね。


 フオちゃんは頭をがしがしと掻きながら、とりあえずあの大部屋に行こうと声を掛けてくれた。

 そうだ、こんなところでイライラしたり凹んだりしてる場合じゃない。

 私はすぐに立ち直って、まだ気が収まらなさそうにしているマイカちゃんの腕を引っ張った。


「……どういうことだ」

「う、うーん……これに乗るしかないって状況なのは分かるけどね」

「問題はどうしてそうなったかってことよ」


 部屋に辿り着くと、そこには舟が一隻だけ浮かんでいた。

 さっきまでどの舟に乗ろうかと悩んでいたのがバカみたいだ。私は心の中でミストに語りかけてみる。


 ——あのさ。これ。何?

 ——いやぁ〜皆さん素晴らしい反応でしたね〜。ゾンビの正体を見抜いたあなた方はこのフロアはクリア。さっきのはちょっとした冗談ってやつですよ

 ——っはぁー……そう……

 ——はいぃ〜


 私は額を抑えてため息をついた。なんでこんなキャラが濃いんだ、柱の女神達って。

 私が黙って舟に乗り込むと、なんとなく事情を察したっぽいマイカちゃんとフオちゃんがそれに続いた。



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