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勇者√←ディレクション!  作者: nns
乾きを知らぬ碧の杜 青の柱
174/250

第174話

 これまでの旅で、人の形をしたゾンビとは戦ったことはないので、

 色々と想像を働かせて対処していこうと思う。

 まず、マイカちゃんを向かわせるのは悪手だろう。

 直接触れて何かあったら大変だから。

 だけど、私の双剣もリーチが短いからあまり適しているとは言えない。

 それでもフオちゃんは回復専門だし、ここは私がなんとかしないと。


 私は慌てて鞄の中を漁った。

 たくさん入る特殊な加工のおかげか、幸いなことに中身は全部無事のようだ。


「ラン! 荷物のチェックはあとでいいわよ!」

「ちょっとあいつのこと見張ってて!」

「マイカ、今はランの言う通りにしようぜ」


 フオちゃんが宥めてくれたおかげで、マイカちゃんはちょっと落ち着いたようだ。

 私が鞄を漁っているのにも何か理由があると思ってくれたらしい。

 さすがにね、いくら私でも、テンパったからってゾンビを目の前にして

 鞄の整理し始めたりしないからね。気付いてくれてありがとう。


 私はジーニアで記した自分のメモを探していた。

 そこにはセイン王国で使える呪文が書かれている。

 絶対に来る土地だからと思って書き残しておいたのだ。

 だけど、なかなか見つからない。

 小さく圧縮されているから、指先に当たる僅かな感触だけが頼りだ。


「ちょっと、ラン!」

「待ってって!」


 ゾンビは刻一刻とこちらに近づいている。

 もう適当に出して当たったらラッキーってことで、いいよね!


 手に当たったひらひらとしたものを摘まんで出してみる。

 ひらひら~っと宙を舞うそれを見ると、私はタオルを持っていた。


「……で? それで何をするの?」

「……体濡れたから、拭こうと?」

「本気で言ってるなら殴り飛ばすわよ?」

「ち、違うよ! もうちょっと待って!」

「もう待てないわよ!」


 しびれを切らしたマイカちゃんが飛び出そうとしたそのとき、

 クーが彼女の肩から降りて体を少し大きくした。

 私達と同じくらいの体長になったクーはゾンビの前に立ち、身の丈以上の炎を吐く。


「グオー!!」

「クー!?」


 体中に火が付いたゾンビは暴れて、水路へと落ちていった。

 消火できたものの、ゾンビはピクリとも動かない。

 しばらく見ていると、ゾンビはシュウウと音を立てて、消えていった。


「消えた……」

「クー、偉いわ!」

「キャウ!」


 マイカちゃんはクーに抱き着いて頭を撫でている。

 クーは目を瞑ってニコニコしていたが、私は内心でヒヤヒヤしていた。

 倒せたから良かったものの、あのゾンビ……右手を上げていた。

 水に落ちるのが少しでも遅ければ、クーはあいつに引っかかれていたかもしれない。


「クー、ありがとう。助かったよ」

「クッ!」

「クーはマイカちゃんを守るのに徹してくれる?」

「先頭に立ってもらえばいいだろ」

「あいつ一匹だったから良かったけど、複数で来られたらと思うとさ……」


 私は浮かない表情でそう言うと、フオちゃんとマイカちゃんも考え直してくれたらしい。

 だけど、そうする為にはゾンビに対抗する手段が必要だ。

 敵があいつ一匹とは考えにくいから。


「ラン、さっき何探してたの?」

「えー……と、あった。これだよ」

「なんだ? それ」

「セイン王国の呪文だよ。えーと、火の呪文は……ファイズだ」


 私はほっとした。これで次からは私も戦えるんだから。

 そうしてせっかくだからと、出したタオルを共有してみんなで簡単に髪を拭くと、私達は再び歩き出した。


 出発してすぐ、角を曲がると絶句した。そこには、大量のゾンビが居たのだ。

 実を言うとちょっとだけ嫌な予感はしてたんだよね。妙な気配があったっていうか。


 もう精霊に力借りちゃおうかな。

 狭いところでは極力使いたくなかったんだけど……。


「何よこれ……」

「ラン、精霊の力は借りるなよ」

「え、なんで?」

「当たり前だろ。水路壊されたら本当にヤバいんだから」

「あぁ〜……そうだよね」


 フオちゃんの言う通りだ。特にこの建物は複雑に水が入り組んでいる。

 魔法で拡張された空間とはいえ、どこかが壊れたりすれば、全体に影響を及ぼすかもしれないんだ。

 フオちゃんが居てくれて良かった……マイカちゃんだったら絶対止めてくれなかった……。


「それに、今はもうクーまかせじゃない。だろ?」

「う、うん!」


 私は前方に手をかざすと、呪文を唱えた。


「ファイズ!」


 手から放たれた火球は一番手前に居たゾンビに直撃し、さっきと同じように

 ゾンビは水の中に飛び込んだ。

 可哀想な気もするけど、こうやって燃やして数を減らしていけば、進めるようになるだろう。

 結構時間かかりそうだけど。


「クー、さっきの、お願いね!」

「クオ!」


 クーにはマイカちゃんを守ってもらう。

 マイカちゃんも、いざとなったら力を使えばいいんだけど、一回きりだから

 できるだけ温存しておいてもらいたいし。


 私はフオちゃんを守りながら進めば……と思ったけど、それは杞憂だった。

 私は、なんて失礼な見落としをしていたんだ。


「ファイズ!」

「へ?!」


 フオちゃんの手から放たれた魔法がゾンビを焼く。

 呪文だから当たり前なんだけど、私が唱えているのと同じくらいの、

 ゾンビを撃退するには十分の火力だ。

 というか、的を狙うのが私よりも上手いから、一番の戦力と言っても過言ではない。


「お前な……あたしだって呪文さえわかれば魔法くらい使えるっつの」

「フオちゃん……!」

「フオ、アンタ……炎の魔法、めちゃくちゃ似合うわね。ビジュアル的に」

「あ、それ私も思った」

「うるせーな! どうせ回復魔法使わなさそうな身なりだよ! いいから行くぞ!」


 ずんずんと先に進むフオちゃんに置いていかれないように小走りする。

 仲間に普通の魔法を唱えるタイプの人がいたことはないからすごく新鮮だ。

 そしてマイカちゃんとは別の意味で頼りになる。

 レイさんが、この塔の攻略にはフオちゃんが必要だって言った意味がやっと分かった気がした。



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