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勇者√←ディレクション!  作者: nns
夜を齎す 黒の柱
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第17話


 黒い柱が伸びる塔が見える。

 その黒はどこまでもずーっと伸びていて、あんまり見上げると転びそうになってくる。


 アレをぶっ倒せばいいってことにしてほしいけど、そういうわけにはいかないよね。

 クロちゃんがいるし。


「村長から鍵は預かってきた、けど……本当に行くのか?」


 私達は支度を終えて、塔への道を歩いていた。

 明らかに人工的に切り取られた岩肌を横目に歩いて行く。

 しばらくすると塔の入り口の手前の門まで辿り着いた。ここまで道案内してくれたのはタクトだ。


 鍵を挿し込んで、回す前にこちらを振り返る。

 私は無言で頷き、マイカちゃんはとっとと開けるよう催促をする。


「じいちゃんから粗方聞いたよ。俺らは、勇者なんか好かない。二人を応援するぜ」

「うん、ありがとう」


 ほとんど開閉されないであろう門は、ギィィと大げさな音を立てて開く。

 私達はタクトに手を振って、塔の入口に立った。


 背後で門扉が閉まる音が聞こえる。

 もう後戻りはできないぞ、と言われているみたいだった。


「あぁ、やっぱり。扉、鍵かかってる」

「オッケー。ラン、退けて」


 マイカちゃんが何歩も後ろに下がって助走の距離を作る間、私は走った。

 たっと走って今閉まったばっかりの門扉に背をついている。


「下がり過ぎじゃない!?」

「マイカちゃんが扉を蹴飛ばすんでしょ? 粉々に砕け散った破片が目に刺さったり

 するかもしんないじゃん」

「粉々なんだから刺さるような出っ張りは最早なくない?」

「ツッコむとこそこ?」


 私が軽く呆れていると、マイカちゃんはタッと軽やかに走り出して、

 《《いい》》のを一発、扉に叩き込んだ。

 魔法か何かでガードされている可能性が高いと踏んでいたけど、普通に物理キーだったようだ。


 マイカちゃんが着地して、私に振り返る。

 やっほーって感じで手まで振ってて可愛い。可愛いんだけどさ。

 このもげたドアどうすんの?


 駄目だコレ、早くなんとかしないと。まぁどうにもなんないんだけど。

 私はドアを持ち上げると、倒れないようにそれっぽく立てかけた。

 そーっと手を離すと、マイカちゃんが回し蹴りで扉を蹴り飛ばす。


「何してんの!? やめてくれる!?」

「何してんのはこっちのセリフ! ラン、ここがどういうとこか分かってんの!?

  巫女がいるなんて知らなかったら、どうにかして壊しててもおかしくないような場所じゃん!」


 確かに……。

 元々破壊しててもおかしくなかった建物のドアがどうなろうと、どうでもいいよね……。

 私は100%の正論を一身に受けて、すぐに手のひらを返した。


「私が間違ってた。バンバン小破壊を繰り返してこ」

「そこまで言ってないんだけど」


 私達の声が妙に響く。

 空間に奥行きを感じて見上げてみると、そこは螺旋階段になっていた。

 かなり長いこと歩かされるようだ。

 塔の内壁に添うように据え付けられた階段を見てそう察した。


「うわ……あのさ、マイカちゃんだけで行ってきてくれる? 女神にはここから呼びかけるから」

「私は別にランの足を持って頭を階段にガンガン打ち付けながら登ってもいいんだよ」

「ごめんなさい、行きます……」


 空が飛べたらなぁなんて馬鹿みたいな夢を見てしまいそうになるくらいの距離だ。

 吹き抜けになった天井が遠くて恨めしい。


「この塔、中はほとんど空っぽだったなんてね」

「伝説の塔なんていうから、中にはどんなモンスターがいるのかと思っちゃった」

「それ。でも、モンスターどころか……巫女までいなくない?」


 マイカちゃんは天井を見上げてそう言う。

 実を言うと私もちょっと気になってた。


「うーん……この階段の先に扉があるとか?」

「そうしたら外から見て、この塔も出っ張ってないと変じゃない?」

「確かに……」


 もう私黙ってようかな。

 さっきからマイカちゃんの方が強いし正しいし。もう正義の味方じゃん。


 私達は狭い階段を上り続けている。先頭は私。すぐ後ろにマイカちゃん。

 一応灯りも用意してたんだけど、普通に窓から結構な光が射してるから出番はなさそうだ。

 この階段の先に何があるのか、その疑問を解決すべく、私は休まずに歩みを進める。


「そういえば、あのおじいちゃんが村長に話を通してくれたんだよね?」

「うん。救出するという話は親族にはしないことにしたみたいだけど」

「ぬか喜びで終わる可能性もあるしね。変に期待されたくないし、それで良かったのかも」


 そう、私達は絶対にこの黒い柱を消す。何があっても。

 だけどそれが、クロちゃんを救うこととイコールになるかは分からないのだ。


「……ここは?」


 私達が登りきった先はただの床だった。どうなってんのこれ。

 下からの支えもないし、ジャンプしたら崩れそうで怖い。

 これで本当に私が死んだら前代未聞のエンディングを迎えるんだろうな……。


「ラン、なんか変なこと考えてるでしょ」

「まぁそれなりに」

「あれ見て。床に何かあるよ」


 マイカちゃんは床の先端を指す。

 これ以上進んだら落ちて死にますってところを。

 床に何かが置いてある、というよりは床自体に細工が施されているという趣きだった。


 ゆっくりと近付きながら目を凝らす。

 私はこれが何かを知っている。これは、魔法陣だ。


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