表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者√←ディレクション!  作者: nns
深層部 サカキファミリー
154/250

第154話

 私達は客室でお茶をすすっていた。

 くつろいで欲しいと言われたけど、状況が状況だし。

 部屋に食事なんかを持って来てくれる女性はことごとく薄着で、同性とはいえ

 目のやり場に困るくらい大胆な格好をしている。


 曰く、暗器などを隠していないことや、友好的に接する気持ちを現す為で、

 この国では比較的ポピュラーなやり方なんだとか。

 男の人の前でこんな格好したら……とも思うけど、まぁそれも含めてってことなのかも。


 出された食事も、毒味役が一口ずつ食べて見せるというパフォーマンス付きだ。

 いや、ただのパフォーマンスって言い切れないんだけど。

 実際それで大変なことになった訳だしね。

 ただ、この辺の土の精霊ともすっかり仲良くなれたし、何かあれば

 彼らが知らせてくれると思うので、さほど警戒はしていない。


 毒味役が下がって、部屋に私達しかいないことを確認すると、

 マイカちゃんは食事をしながら言った。

 出ていかないの? と。


「……とりあえずは、ね。クーも休ませてあげたいし、ルリとはまだ話すことがある。

 それに、結局休んでないじゃん、私達。休息は大切だよ」

「もちろん分かってる。今後の事を考えるとまだ道のりは長いし、この先に

 休めるところがあるようにも思えない」

「……じゃあいいじゃん。どうしたの?」

「私は、こわいわ。私だけならどうとでもなるかもしれないけど、クーが……」


 マイカちゃんはすぐ横に置かれている小さなテーブルの上のクーを見た。

 テーブルは魔法陣の為に設置されたもので、そこには回復陣が展開されている。

 せめてこれくらいさせて欲しいと言って、使用人の中でも偉そうな人が置いていったものだ。

 できるだけクーに元気になってもらいたいので使わせてもらってる。


 クーは座って、ゆっくりとお気に入りの木の実をついばんでいた。

 特に変な感じもしないし、本人も居心地が良さそうにしているので、とりあえずは心配してない。


 だけどマイカちゃんには分からないだろう。

 信用していいのか分からないものに囲まれていて、守りたい存在と唯一信用できる存在がいる。

 それが今の彼女が置かれた状況だ。

 彼女が安心できるように、私はリラックスした感じで話を続けた。


「大丈夫だよ。ここの精霊とは仲良くなったから。もし変な動きがあったら教えてくれる。

 それに見なよ。クーもあそこに居て嫌そうじゃないじゃん?」

「それは、そうだけど……ラン。ルリに話したいことって、何?」

「んー、ちょっとした交渉だよ」


 私がしたい交渉は、ルリが私のことを出し抜こうとしてても、

 心から反省していたとしても成立することだ。


 先ほど使用人に確認したところ、ルリはクーと同じ魔法陣を使って身体を癒しているらしい。

 それが本当ならサイズは違えど、効果に差は無いだろう。

 明日には会話できるくらい程度には回復してると思う。


 その日、私達はいたれりつくせりで夜まで過ごして、朝を迎えた。


 寝ている最中に襲われるようなことはなかったけど、目覚めはそこまで良くなかった。

 多分、心のどこかで気持ちが張りつめているんだと思う。

 マイカちゃんほどではないにしても、私だってこの屋敷の人達を心から信用している訳ではないし。


 朝食を済ませて支度をすると、私達は緊急時を想定して、きちんと荷物を持って、

 マイカちゃんはクーを抱っこして部屋を出た。

 扉の近くに控えていた使用人に「ルリに会わせて」と伝える。

 「その意思は伝えますが、何ぶん治療中なので……」と、

 やんわり”無茶を言うな”と拒否されてしまった。


「そう。自分で伝えるからどこにいるか教えて。教えてくれないならいい。自分で探す」


 私がゆっくりと手をかざそうとしたら、その人は「すぐに案内します!」とか

 なんとか言って慌てて駆け出した。

 私だってこんな風に力を誇示するようなことしなくないけど、のんびりする気分にもなれない。

 できるだけ早めにこの大陸を離れたいのだから。


 他の部屋よりも大きな扉の前で止まると、使用人はノックをしてから声を掛けた。

 向こうからの返事はない。きっとそういうものなのだろう。

 使用人も疑問を抱いていないようだ。


「ラン様、マイカ様がお話があるとのことで……その、如何致しましょうか」


 向こうの返事を待たずに、マイカちゃんはドアを押した。

 なんかバキって言って扉は奥にバーン! と倒れてしまった。


 目を丸くする使用人達と、さらに私達。

 うん、わざと壊そうとしたつもりじゃないからね。

 この扉、押すんじゃなくてスライドさせるんだね。

 マジごめん。


「……随分と派手な見舞いだこと」

「そりゃ派手にやり合ったし、多少はね」


 意味不明なことを言って誤摩化しながらも、部屋の中にずんずんと進んでいく。

 ルリはこうなることは分かってたという顔をして、座椅子に座って静かに闖入者達を見上げていた。

 下半身には布がかけられていて、その下には淡い緑色の光が漏れ出る魔法陣がある。


「……分かっている。確かに私達には対話が足りなかった。そして、こうなってしまった今、

 その主導権はそちらが持つべき。こちらが百歩も千歩の譲るのは当然の道理、だろう?」

「だね。それじゃ、はっきり言うね。私達に協力してほしい」

「……協力、とは?」


 ルリが目配せをすると、傍に控えていた女性が私達に座布団を出してくれた。

 腰を下ろすと、私は話を始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんて凄い交渉術なんだ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ