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勇者√←ディレクション!  作者: nns
対岸の町 ピコ
14/250

第14話


 適当な樽に腰掛けていた私とは違い、マイカちゃんはたまに跳んだり拳を突き出したりしている。

 恐らくは買ったばかりの装備の調子を確認してるんだろうけど、

 動きがいっぱしの格闘家なんだよな……


 私のお店に琨やらツメやらを直しに来た人達の動きと比べても遜色ないよ……そ

 んな勇ましい女の子いる……?


 タンタンと二、三回腿を上げてつま先を踏み鳴らすと、マイカちゃんは振り返って私を見た。


「ラン、聞きたいことがある」

「何?」

「もし柱を再び封印する手段が、巫女を殺すことだったら……どうする?」

「……なるほどね」


 私は彼女達を助けるつもりだった。

 正しい方法さえ分かればそうすることは不可能ではないと思っていた。

 だけど、マイカちゃんのする”もしもの話”は間違いなく現実的なものだ。

 生命力をどのように差し出すのかは分からないけど、その方法によっては、

 私達の目標は彼女達の命無しでは達成し得ない可能性がある。


 マイカちゃんは私の返答を待っているようだ。

 特に私に期待する回答はなさそうだけど。

 ただ、私がなんて言うのか、どう考えるのかを知りたがっている。そんな様子に見える。


「巫女を手にかけるなんて無理。大至急、街に戻るよ」

「え」

「当たり前でしょ。こんなことに巻き込まれた女の子達を倒さなきゃいけないなら、私は勇者を倒す」


 マイカちゃんは私の答えを聞くと、かなりたっぷり間を置いてから「マジキチ」と呟いた。

 誰が頭おかしいじゃ。


「まーでも、その方がいいかも。私も、被害者である巫女達を犠牲にするなんて、後味悪くてイヤだし」

「でしょ? だから、そのときはそのときってことで。みんなのこと、逃がしてあげてね」


 そう答えると、彼女は一瞬寂しそうな顔をして、だけど何も言わなかった。

 その表情の意味が気になった私は声をかけようとしたけど、大きな汽笛の音にかき消されてしまった。


 船から降りて来る人達は私達のときよりずっと多い。

 倍じゃ足りないくらいの多さだ。


 私達は街の中心地へと目指す人々に話し掛ける為に歩き出した。

 二人で声をかけると怪しまれてしまうかもしれないし、効率も悪いということで、

 しばらく一人で行動することになった。


「黒い柱の麓の村について、何かご存知ありませんか」

「あぁ。オニキスニエのことだな? なんでも聞いてくれ。俺は仕事でよくあそこに行くんだ」


 当たりを引いたのは七、八人目だった。

 彼は石材を切り出しに行く為に立ち寄ることが多いらしい。

 上質な建築用石材がその村の特産なんだとか。

 まぁ思っていたような種類の情報ではなかったけど、彼は非常に有用な情報を提供してくれた。


「地図なんて要らねぇよ。この街を出て、黒い柱に向かってまーっすぐ進めば着くんだから。

 この辺りは殺風景で迷子になりやすかったんだが、柱が出てからは目印になって助かるってもんだ」


 体格のいいおじさんはそう言って笑った。

 アクエリアには歳の離れた妹の結婚式に出席してきたとか世間話をしてから、手を振って別れた。

 私達が解散する頃には、他の船の乗客も各々の目的地へと散っていた。


「長々と話してたけど、場所分かった?」

「うん。柱の黒い光を辿っていけば到着するみたい」

「なんだ、分かりやすくて良かったね」

「マイカちゃんは何か分かった?」

「逆ナンだと思われてそれどころじゃなかったわよ」

「あっ……」


 そうだ。見た目こそちょっと変則的な冒険者風だけど、マイカちゃんには持ち前の可愛さがある。

 あとおっぱいあるし。

 小さくて可愛い女の子によく分からないことを聞かれたら、鼻の下を伸ばしたくなるだろうね。

 でもこれ以上この話を掘り下げるのは、一度も逆ナンだと思われなかった

 私が可哀想だからやめようね。やめて。


「でもさ、女の人に話し掛ければ良かったじゃん」

「話し掛けた瞬間、「私の方が可愛いけど!?」って怒られたよ」

「こわ」


 それはその人がイっちゃってるだけだよ。嫉妬の塊じゃん。

 どういう精神状態だったらそんな純度100%のやっかみ感情を他人にぶつけられるの。


「そいつがヤバいだけだと思うでしょ」

「うん。他にもチャレンジすべきだったんじゃない?」


 そう言うと、彼女は残念そうな顔をして、頭をふるふると左右に振った。

 そういう玩具みたいでちょっと可愛い。


「他の女の人にも声かけたけど、逆ナンに間違えられた」

「ヤバ」


 もう為す術無しじゃん。どういうことなの。

 私は彼女が抱える魅力パワーの強さに戦きながら船着き場を出ることしかできなかった。



 町の中央にある日時計によると、もうお昼だ。

 町はおそらく夜ほどではないにしろ、ぽつぽつと開店準備を始める店や、

 住民っぽいのを見かけるようになった。

 町全体が寝ぼすけなのはよく分かった。


「とりあえず場所も分かったし、お昼食べたら出発しようか」

「それがいいね。夜のピコの町を見れないのは、ちょっと心残りだけど」


 想定していた以上に船でよく眠れたせいか、午前中はなんとなく

 時間をつぶして終わってしまったからか。

 はっきりしないけど、今日の私達はやる気十分だ。

 もしかすると、今後のことに少し触れたせいもあるのかも。


 休んでる暇はないんだって、自分達の旅の目的をしっかりと見ている

 私達の足は止まろうとしなかった。


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