表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者√←ディレクション!  作者: nns
オオノの名前
132/250

第132話


 城壁の休憩所から戻った私達は、まだ明るかったけど部屋に戻ってきた。

 そして夕食を食べたあとにすぐ寝た。


 そこまでは覚えてる。

 なんかマイカちゃんがキスをねだったりしてた気がするけど、

 眠たかったのでどんな風に応じたのかは覚えていない。

 多分応じはしたと思うけど。断る理由ないし。


 で、今に至るんだけど……。

 マイカちゃんの頭を胸に抱いてぐーぐー寝ていたはずが、目が覚めると、

 多分全然知らない人を胸に抱いてるんだよね。

 手で触れた髪の質感がマイカちゃんのものと全然違うし、すごく長い気がする。

 部屋の電気をつければどういうことか理解できるんだけど、あいにく現実を直視するのが結構怖い。


 私が全身の違和感に硬直していると、急に部屋が明るくなった。

 おそるおそる振り返ると、そこには固まってるマイカちゃんがいた。

 咄嗟に命の危機を感じる私。


 久々に発した気がする声だったけど、第一声は「ち……!」だった。

 多分違うって言おうとしたんだと思う。

 だってマイカちゃんが部屋に入ってきたってことは、私の腕の中にいるのは

 誰か分からない別人ってことになるから。

 真っ先に頭に浮かんだのが弁明だった。


 ぽかんとしてるマイカちゃんから視線を外して腕の中を見ると、

 そこには本当に心当たりのない女性が寝ていた。

 それはもうすやすやと。しかも下着姿で寝ている。

 何これ。夢かな?


 いつまで待っても夢から覚めないから、私はまた視線をマイカちゃんに戻した。

 何があったのか、目の前の光景を彼女なりに咀嚼するのに時間が掛かっていたらしい。

 私と目が合うと、おそらくは深夜にも関わらず声を大にして言った。


「誰よその女!」

「いや知らないよ!?」

「知らない女が寝てるわけないでしょ!」

「ちがっ、あっ、これ女装かも!? 男の子かも!?」


 いやそれはそれで問題だよね。

 すぐに自分の支離滅裂な言い分に対してツッコミが思い浮かんだけど、

 言葉を選んで発してる余裕なんてなかった。


「うぅるさいなぁ……」

「!?」


 女性は眠たそうに目をこすってのっそりと起き上がって、

 私とマイカちゃんと顔を交互に見た。

 それを二回繰り返したあと、「……誰?」と呟いて、自分の体を守るようにして毛布で隠していた。


「こっちが聞きたいよ」

「アンタ、なんなのよ」

「……?」


 長い黒髪の女性は、切れ長な目をさらに細めて何かを思い出そうとしているようだ。

 だから私は、私から見て何が起こったのかを話してみた。


「起きたらこの人が腕の中にいて、私もまだ混乱してるんだけど」

「私は目が覚めちゃったからランを置いて外の空気を吸ってきたのよ。

 ちょっと散歩して戻ってきたらこうなってたんだけど」

「この人がここにいる理由はちょっと置いといて、マイカちゃん。部屋出るときに鍵かけた?」

「かけてないわね」

「もうそれが直接の原因である気がしてならないんだけど」


 つまりマイカちゃんとほとんど入れ違いに、この子は部屋を間違えたということだろう。

 しかしこの美人、誰かに似ている気が……。


「えぇと、すまない。私が部屋を間違えたんだと思う。酔っ払ってたから……すぐに出ていく。

 ……って、何故私は服を脱ぎ散らかしてる……?」

「知りませんけど!?」


 マイカちゃんの目が鋭くなるのを感じたので、私は盛大に無実を主張した。

 本当に知らないし。

 酔っ払ってたって言ってるし、自分で脱いだんでしょ。やめて。


 マイカちゃんはベッドに近付くと、黒髪の女性の顔を覗き込んで「オオノに似てるわね」と言った。

 それだ、私が似てると思った誰か。

 オオノは普段から女装してるせいか、とてもよく似てる。


「……なんで私の名前を知ってる?」

「はい?」


 こんな偶然ある? オオノに似てる人の名前までオオノだなんて。いや、有り得ない。

 マイカちゃんと二人で困惑していると、オオノと名乗った女性は

 下着姿のまま腕を組んで「まさか……」と呟く。


「私達の知ってるオオノ、じゃあないよね……?」

「どう見ても女だし、違うでしょ」

「もしかして、二人ともサツキの知り合いなのか?」

「サツキって誰よ」


 この謎の美女はヤヨイさんと言うらしい。

 オオノはどこに行ったんだと思ったけど、フルネームがオオノ・ヤヨイなんだとか。

 サツキというのは故郷を捨てていなくなった弟さんの名前で、ヤヨイさんは弟を探す為に

 旅をしてるらしいけど、全然手かがりがなくて途方にくれてヤケ酒して今に至る、と。


「二人の知ってるオオノという人物は男か?」

「そうね。すごい美人だけど」

「は……? 美人……? サツキに何が……?」

「この街では男性は女装してるじゃないですか。ヤヨイさんもこの街に入るときに

 異性装してるか確認されたんじゃないですか?」

「長旅だったし、臭いとか汚いとか判別不能だとしか言われなかったな」

「どんだけよ」


 私達の知ってるオオノと無関係の人とは思えない。


 街に入る時の門番の特徴を聞いたら、背の低い女装した子だったと言うので、

 マトと会っている可能性が高い。

 ということは汚いとか言ったのってマトかなぁ……うわ、言いそう……。


 なんとなく事情が見えてきた私は、ひとまずヤヨイさんを部屋に帰して、

 この後どうするかを考えることにした。

 最近、全然安眠できないな、なんて思いながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ