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勇者√←ディレクション!  作者: nns
祭りの後で後の祭り
106/250

第106話

 陽が落ちて辺りが暗くなって、盛大なお祭りが少しひっそりとした頃。

 私とマイカちゃんは「レースが終わったらもう一周しよう」という約束をやっと果たして、

 かなりくたびれていた。


 レースが始まる前はもっと早く見て回れたのに。

 だけど、これは誰かが悪いとかじゃなくて仕方のない問題だ。

 伝統のレースと街を守った英雄が歩いていたら、きっと誰だって声をかけたくなる。


 マイカちゃんも最初は「別にいいわよ」なんて言ってたけど、少し移動する度に

 一歩も進めなくなる状況に、徐々に参っていったようだ。

 お礼だと言われて差し出された露店の食べ物を貰ってプラスマイナスゼロ、という感じだった。


 あげた分だけ平らげる様子も面白かったみたいで、街の人は際限なく彼女に食べ物を買い与えていた。

 マイカちゃんは私の隣を歩きながら、「久々に限界を超えて食べた気がするわ……」なんて言ってる。

 もらったのを律儀に全部食べなければいいだけなのに……っていうか

 そんなになるなら少し私に分けてくれても良かったのに……。


 私も私で、マイカちゃんに旗を渡したフラッガーだったのを見ていた人がいたようで、

 おこぼれを頂いたりして結構お腹いっぱいなんだけど。


 クーを置いて西区からスタートした散策は、やっと西区まで戻ってきている。

 私達はそのままハブル商社に行くことにした。

 ルークには話さなきゃいけないことがあるって気付いたから。

 本当はドロシーさんとも話したいんだけど、居るかな。


 ビルのドアは鍵が掛かっていなかった。

 中に入ると、入口付近の応接間にフィルさんとルークが腰掛けていた。


「おっ。やっほー。もうすっかりここが家って感じじゃん、二人とも」

「居てくれて良かった……ちょっと休ませてもらっていい?」

「もちろんだよ」


 私とマイカちゃんはルーク達と向かい合うようにソファに座った。

 フィルさんがマイカちゃんにお礼を言ったり、かっこよかったって褒めたりしてくれている。


 街で同じような言葉を散々かけられてきたというのに、知人に褒められると照れ臭いのか、

 マイカちゃんはごにょごにょ言いながらそっぽを向いた。


 恥ずかしそうにしているので、私は意図的に話題を変えることにした。


「二人はいいの? 見て回らなくて」

「んー。曲がりなりにも優勝者だし。めんどくさそうだなって」

「案外クールなのね。アンタ」

「これでも一応大人なんで」


 得意げに笑うルークと、「そうそう、一応ね」と意味深に彼女の言葉を肯定するフィルさんと。

 旅を始めるようになって、親切な人達にはたくさん会ってきた。

 ドワーフのコロルさんに、ジーニアで協力してくれたサライさん、

 コタンの村の外れに住んでいるタラさん達。


 でも、これほど友達のように仲良くなれた人達は、今までいなかった。

 二人に言わなきゃいけないことがあるのに。なかなか口に出来ない。

 私は旅を始めてから初めて、離れ難いという寂しさに胸を締め付けられていたんだ。


「ラン? どしたの?」


 目を丸くするルーク。首を傾げるフィルさん。

 マイカちゃんにもまだ伝えてないので、みんなが不思議そうな顔をしている。


「私達、今晩ここを発つよ」

「……は? ちょっと、聞いてないわよ。なんで勝手に決めるのよ」

「ちょっと待ってよ、なんで? もう少しゆっくりしていけばいいじゃん」


 フィルさんだけが、残念そうな顔のまま、何も言わないでいてくれた。


 私は話した。

 インタビューに答えるってすっごいヤバいことをしたんじゃないか、ということを。


 今のところ勇者は私達を追いかけている様子は無いけど、今日のインタビューが

 載った新聞が何かの伝手で他の国に渡ったら。

 みんなに迷惑をかける前に、ここを去るべきだろう。


「よく考えたらその通りじゃん……なんでインタビューに答えたの?」

「よく考えなかったからとしか言いようが無いわね」

「あのねぇ……」


 ルークはマイカちゃんに呆れた視線を向けていたけど、

 すぐに思い至って止めなかった私も同罪だ。

 あの時は危機を脱して、なんとか大会を無事に終えられたことへの安堵しかなかった。


「まっ、二人のそういうところ嫌いじゃないし、私が同じ立場だったとしても

 気付かなかっただろうし。済んだことは仕方ないね」


 私もルークのそういう切り替えが早いとこ、結構好きだよ。

 照れくさいから言わないけど。


 一呼吸置くと、ルークは真剣な顔でロビーにある世界地図を見上げた。

 私達も釣られてその視線の先にあるものを見る。


「そんじゃ、あそこ行きなよ」

「え?」

「紫のとこ」


 ルークの言う色で塗りつぶされているのは、ある一帯しかない。

 その辺というのは間違いないだろう。

 淡い黄色や緑で彩られた地図の中では、無色のルーズランドと同じくらい異質に見えた。


 紫の一帯の真ん中辺り街の名前らしきものが書かれている。

 読めないけど、ピンが刺してあるし、ルークが指しているのはここで間違い無いだろう。


「ユーグリア、大きな街だよ。いきなりルーズランドに飛ぶのも無謀だと思うしね。

 大陸を渡る前にそこで準備するといいよ」

「ちょっと、ルーク。そこは危ないんじゃないの」

「平気でしょ。この二人なら」


 フィルさんの反応から察するにちょっとヤバそうなところだ。

 それに、地図で紫色に塗られているのも気になる。


「なんなの? この街」

「この街はね、異性装しないと入れてもらえない街なんだよ。面白いでしょ。

 配達員によって金額が変わるから紫なの」


 意味が分からない。

 そんなことある? なんで?


 私がぐるぐる考えていると、マイカちゃんは何ということもない、という顔で腕を組んだ。


「観光なら面白そうだけど、そんな手間を掛けている暇は無いわよ。他に無いの? 準備できそうな街」

「あるけど……ルーズランドの手がかりを掴みたいならここっきゃないよ」


 妙に確信めいた言い方をするルークと、その意見については否定しようとしないフィルさん。

 行く意味があるなら、行くべきなんだろうか。


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