8話目
エキドナちゃんの奮闘のお陰で、
まもなくして、俺のレベルも上がった。
ステータスが向上し、思わず俺もニコニコしてしまう。
「……どうした。さっきから、百面相みたいだぞ」
「あっ、いや、なんでも無いよ」
「なら良いけどな」
どうやら俺はさっきから頻繁に、
表情をコロコロと変えてしまっていたらしい。
二段から心配のお言葉が出て来た。
自分では気づけなかったけど、
よっぽど酷かったんだろうか……。
まあこういうのって自分では中々気づけない事だから、
素直に心の中で感謝しておく事にする。
次からなるべく気をつけるようにしようっと。
「……おっ、何か扉があるぞ」
ゴリは立ち止まると、指をさした。
その先には木製の扉がある。
何だろう。
「本当じゃん。何かの部屋か?」
「お宝あったりしてな」
ケダモノと魚人が反応した。
こいつらの意見に賛同するのは癪だが、その可能性はゼロじゃない。
今までの道のりは狭い横道や隙間なんかはあれど、
基本は洞窟で土の壁ばかりだった。
そんな所にいきなり木製の扉がぽつんとある、この違和感。
何かあっても不思議じゃない。
「物音はしないが……」
ゴリは予想外に慎重だけど、その気持ち、分からないでも無い。
ゲームとかだとこの手のはトラップで、
中がモンスターハウスだったりする事もある。
でも、いつまでも様子見したまま……、ってワケにも行かないと思う。
ゴリもそれは承知しているのか、
コンコンとノックをしてからそっと扉を開けた。
すると、
「――いらっしゃいませ」
しわがれた男の声が聞こえた。
「ん?」
「はっ? 人の声?」
「どういうこったよ」
予想外の展開に、全員が戸惑う。
当然、俺も同じだった。
どういう事だろうか。
不思議に思いつつ、状況を確認するべく全員で中に入る。
そこはこじんまりとした、
小さなホテルのフロントのような所だった。
カウンターには、
立派なヒゲを蓄えたどこか品を感じさせる初老の男が立っている。
「何やら戸惑われているご様子。まあそれも無理からぬ事でしょう。初めて当館を訪れられたのでしょうから。ええ、私には分かります」
ふむ、と初老の男性は頷きながら話を続けた。
「ここは迷宮の探索者の方達の為の憩いの場。宿の提供をはじめ、武具防具、道具類の売買、加工、そして鑑定等もお承りしている、探索者の為の総合施設でございます」
簡潔明瞭に説明を終えると、初老の男性はぺこりと一礼した。
なるほど。
つまり、あれだね。
迷宮内にあるお店って事かな。
「なるほど。こういうのもあるのか。……すみません、利用したいのはやまやまなのですが、実は我々には今の所、お金がありません」
ゴリがそんな事を言う。
確かに、お金は今の所もってない。
でもそれは全員共通だよ。
何せ、体育の授業中での転移だったからね。
と言うか、仮に持っていても日本円使えないんじゃないかな。
「ご心配には及びません。施設内では、迷宮内で入手可能な魔石を金銭として『も』扱えない事も無いですし、お手持ちの武具防具、道具等での物々交換も承れる事もあります」
「魔石や武具ですか? いえ、思い当たるようなモノは特に……」
「こういったモノなのですがお持ちではありませんか?」
やっぱり日本円は使えないよね、
と、納得していると、
初老の男性がカウンターの上に何かを置いた。
色々な石だ。
何か光沢のあるモノや、
ビーズ見たいな小ささのモノなど、
色々な形や色の石。
これが魔石らしい。
これって確か……。
ふと思い当たる節が脳裏に浮かんで、
俺はポケットの中にしまっていた石を取り出した。
「おおっ、それです。お持ちではありませんか」
エキドナちゃんがスライムを倒した時に出たあの石である。
もしかしたらと思って拾った行動は間違いでは無かった様だ。
これが魔石。
「――っどこでそれ拾ったんだよ! ずるいぞ」
すると、ケダモノから嫉妬の言葉が飛んできた。
どうしよっかな。
教えないでおくか、教えた方が良いか。
俺は一瞬考える。
で、結論は結構早く出た。
ここは素直に行こう、と。
「魔物倒した時に出て来たんだよ。何か使えるかなと思って取ってた。それだけ」
どうせいつかはバレるのだから、
早めに真実を言った方が良いだろう。
ケダモノや魚人や風見鶏だけが居たなら、
適当に誤魔化したりシラを切って終わりで良いけど、
ここにはゴリと二段も居る。
下手なことを言って二人の信頼度を下げたくはないよね。
「倒したって、いつの間に」
「ここに来るまでに魔物なんて居なかったろ!?」
「班分けする前にだよ。俺のスキル召喚士なんだけど、魔物を召喚して仲間に出来るんだ。それに倒して貰って、その時に出た。俺、最後尾だった時あったでしょ? 後ろの方から、一匹だけどスライムが迫って来てたんだ」
俺は堂々と言った。
ウソでは無いから、強い言葉で言える。
ゴリや二段は驚いたような顔をしたけど、
すぐにそんな事があったのかと納得してくれた。
しかし、どうにも納得出来ないヤツも居るようだ。
主にケダモノ。
「はぁ? ウソ言うなよ。魔物を召喚して仲間に出来る? どこにそんな魔物居るんだよ」
「むっ、ウソなんてついてないよ」
「じゃあ今から見せてみろよ」
煽られる。
ちょっとこれはイラッとする。
なるほど、見たいなら見せてやろうじゃないか。
丁度そろそろ、エキドナちゃんにも帰って来て欲しかった所だったし。
ついでにエキドナちゃんを見せてビビらせよう。
……ん?
……あれ?
……そういやエキドナちゃん、どうやったら戻って来るんだろ。
「ほら、出せない。どうせどっかで拾ったんだろ? 場所教えろよ、俺らも取りに行くからよ」
「おい、仲間割れは――」
「本当だって! ちょっと待ってて」
くそっ、と内心で悪態つきながら、俺はステータスを開く。
何か無いかと探して見る。
そして失念していた説明文を見つけた。
――――――――――
※、召喚獣は異空間に待機させて置く事も可能。
――――――――――
これだ。
一度エキドナちゃんを異空間にしまって、
それからここに改めて顕現させれば良いんだ。
「……よし」
試して見ると手ごたえを感じる。
やった、成功だ。
まもなくして、淡い光と共にエキドナちゃんがその姿を現して――あれ、何か、少し見た目が変わってる。
何でだろう。
エキドナちゃん、何かすごい胴体が膨れてる。
まるでツチノコ……。
レベルが上がって勝手に進化したとか、そういう事?
いやでも、1レベ上がっただけで進化っておかしいよ。
そもそも進化先は召喚士が選べる的なニュアンスだったと思うんだけど。
「くっ、くくくっ、何だよそれ、UMAか何かかよ!」
「蛇の魔物だよ!」
ビビらせるどころか、笑われるなんて……。
すっごいムカつく。
召喚出来るかどうかが焦点であって、
エキドナちゃんの見た目は関係無いじゃん。
エキドナちゃんを馬鹿にすんな!
ふん、と俺がケダモノを睨み付けていると、
エキドナちゃんが何かを吐き出した。
ぺっと吐き出されたそれは魔石だ。
それも、一個二個じゃない。
ぺっぺっ、と次から次へと吐き出していく。
そして全てを吐き出すと、
膨れていた胴体が以前と変わりない状態に戻っていた。
エキドナちゃんが吐き出してこれって、
もしかして倒した魔物の魔石……?
なるほど。
これを体の中にしまってたから、
あんな姿になってたのか。
でも何で……いや、思い当たる節はある。
もしかして、
「エキドナちゃん、俺が魔石を拾ったのを見てて、それで?」
問いかけて見ると、
エキドナちゃんはゆっくりと頷いた。
なんて良い子なんだろうか……。